Column (2003/12/22号・週刊ベースボール掲載分)
◎夢の続き〜マスターズリーグ〜

 東京ドームでの試合前のバッティング練習、高田繁選手は右に、左に計ったように打球を飛ばしている。ゲージの後ろで往年の好打者姿を懐かしくダブらせて見ていて私は、あの「高田ファール」が出ないことに気がついた。
「タカ、高田ファールがないよっ!」と声をかける。ニコッと笑った高田さんはレフト線にドライブのかかった打球を狙い打った。現役時代、V9監督川上さんを悩ませた惜しいファールの山。何とかフェアーグランドに落とさせたいと打撃の神様自らの指導も、こればかりはどうにもならなかったものだ。

 ところが、今は「高田ファール」が出ない。サードの頭上を越えたラインドライブは見事にレフト線を抜け、長打コースに転がっていく。
 「頼むから、打ってみてよ」「よっしゃ」また、打球はレフト前に弾んだ。打撃練習を終え、一緒に見ていた土井正三コーチが呟いた。「あの頃、こうやってりゃ、楽に3割打てたのになぁ」
 往年の名選手たちによるマスターズリーグは3年目を迎え、いまリーグ戦の真最中、10月29日に始まり、1月25日まで5チームによる全40試合の後半戦に入ったところだ。体力こそ衰えたとはいえ、長年にわたり培った技術は失せるものではない。打撃フォーム、ピッチング姿、守りの姿勢、ランニングの特徴、皆が現役時代を彷彿させてくれる。ちょっとしたクセも昔のままなのだ。手探りでスタートした初年度と違い、選手たちはトレーニングをして臨んでいる。ユニフォーム姿を見れば、一目瞭然、贅肉をそぎ落としている選手が多い。広岡達朗さんの厳しい姿勢のもとで、セレクションを選手たちには課していると聞いたが、「なるほどぉ」とうなずける。
 この日、11月29日の東京ドームの札幌−東京戦は、土砂降りの雨にも関わらず、3万2,500人の観衆を集めた。東京のエース、「マサカリ兆治」の立ち上がりをとらえた秦真司選手の一撃は、現役時代そのままの見事なライトスタンドへのツーランホームランとなった。タイムトンネルを溯って、私も若いころにマイクに向かっていた自分を探し出したような気分にになれた。マスターズの魅力はファンにとっても、その頃の自分を思い出せることと、まだ元気にやれるという活力を貰えることではないだろうか。
 打たれた村田兆治のこの日の最高速度は139キロ、「140キロが出るまでコメントはしない」と54才のマサカリはこだわりを見せたが、12月8日の福岡戦では、終に140キロの大台に乗せた。「やれば出来る。人生は挑戦さ」と笑顔いっぱいだったが、村田さんはそれなりのことをしていたのだ。フィットネスに通い、少年野球の指導で身体を動かし、登板に備えていた。中高年の皆さん、マスターズリーグを見に行けば、きっと「勇気をもらえること」請け合いです。
 マスターズリーグの素晴らしさは、試合前に少年野球の指導をボランティアでやっていることだろう。この少年野球教室のおかげで、試合が始まったスタンドには、ユニフォーム姿の少年たちの一団があちこちに陣取り、教えてくれた選手たちに声援を送っている。球場に是非家族でやってきて欲しい。そして、おじいさんは孫に、お父さんは息子に、自分達が若いころに見た選手や試合を語りついで欲しいのだ。
 マスターズリーグへの注文がある。もっと楽しく見せる演出を考えてもらいたい。お金や映像権の問題が大きいことは分かるのだが、往年の選手たちの映像をぜひスクリーンを使って見せて欲しい。それにはTV局の協力を得ることだ。プレー以外の見せる、聞かせるエンタティメントとしての演出が問われるのではなかろうか。


プロ野球マスターリーグ
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