Column (2003/12/01号・週刊ベースボール掲載分)
◎五輪出場権獲得からアテネへ

 五輪予選のアジア野球選手権、長嶋全日本は素晴らしい3試合を見せてくれた。長嶋監督の並々ならね決意と初めて感じられた「練れた野球」に、TVを見ながら「ウンウン」と頷いた3日間だった。誰もが感じたことだろうが、「つなぐ野球」に徹したこと、ホームランなしでのティームバッティングが続いた。ボールが飛ばないことを念頭においたのかも知れない。ピンチで見せた再三のファインプレー、3試合で1失点のみの投手陣の好投、集中力を欠くことのない慎重で緊迫した心のあり方が伺えた。何よりも、現役、監督時代に派手さが強調された「ミスター」が、地味な見本の宮本をキャプテンに任命したところから、この全日本の成果がスタートしたといえるだろう。

 私も僧越ながら宮本を日本一の2番ショートと思っている。長嶋監督の期待どおり、宮本は持ち味の「つなぎ」でMVPまで取ってしまった。長嶋監督にとっても、巨人時代以上の「会心の勝利」だったのではないだろうか。
 それにしても、連日のTV中継のアナウンサーの美辞麗句、歌い上げたアナウンスには癖癖させられた。「北の大地から長嶋全日本」「日米決戦に向かってアジアの新時代」等々、よくそんなコメントがつけられるなと思っていたら、アメリカは米大陸予選の準々決勝で、米大リーガーだった3投手リレーのメキシコにやられ、五輪出場権を失ってしまった。「何が日米決戦だ。このおっちょこちょい」と私は苦虫をつぶした。
 仮に米が出てきたとしても、日米決戦には程遠いのだ。米は公式戦真っ最中の8月に大リーガーを並べてオールスターティームを組むなどということはしないのだ。日本のような「五輪至上主義」「金メダル至上主義」ではない。プロはプロとして、現実に「産業」として行っているリーグ戦の方が大事なのだ。まして、野球は個人種目ではない。直前に集めた選手で、慌ただしく合同練習して、それで野球の一番大切なティームとしての形をつくれるのだろうか。
 五輪種目から外される可能性もあるから、プロの最強ティームで五輪に望むべきだという意見もあろうが、それこそ「五輪至上主義」の典型である。けれで「長嶋ジャパン」は解散になり、来年早々にアテネへ向けたティーム編成が行われる。「全日本だから、今度は次の世代につなぐことも考えたい」と長嶋監督は暗にアマチュアの選考もほのめかしている。言わせてもらえば、「あったりまえのこんこんちきよ。アマチュアの夢を閉ざすなんて許せねぇ。アマチュア関係者はもっと主張しろ!いつから、こんな腰抜け、ふぬけになったんだ」と私は呟いているのだ。しかも、ジャーナリズムまでが解説で、「1球団2人枠の再考を」「プロ野球からのバックアップが完全ではない」などと「メダル至上主義」を煽り立てる。確かに、北京五輪から野球競技の削減は検討されるだろう。ロス、ソウルと公開競技を経て、ようやくバルセロナから公式に認められるまで、アマチュア野球界に携わった人々の想いは想像を絶するものがある。
 世界のアマチュア界が五輪の野球を築き上げて来たものなのだ。欧州主導型のIOCだが、野球の素晴らしさが分からないのなら、削減されてもいいじゃないか。サッカーのような「真の1を決めるワールドカップベースボール」を立ち上げればいいのだ。野球が五輪の活動で第一にやることは、「プロの即席ティームの金メダル争い」ではなく「世界の国々に野球を広めること」だろう。もう一度言いたい。「五輪は本来アマチュアのもの」だったのだ。夢を育てて欲しい。今プロの一流選手もアマとして、国際舞台で戦い、「日の丸」の誇りを感じたのだから・・・・・



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