Column (2003/11/03号・週刊ベースボール掲載分)
◎新監督への期待

 「だんだん野球を語ってくれるアナウンサーがいなくなるんですねえ」
 3年近く前のオープン戦のことだ。どこかの球場のトイレで並んで用足しをしているときに、その人は話しかけるともなくつぶやいた。まさか私の放送をこんなふうに聞いてくれているとは思ってもみなかっただけに、私は一瞬とまどった。
「いやぁ、恐縮です。でも今年からJSKYスポーツ(この10月からJ・SPORTに変更)でやりますから・・・・・」と、私は答えた。
 NHKを退職して、これから民放のBS、CS で仕事を始めた私にとって、この落合博満さんの言葉には、妙に勇気付けられたものだった。

 中日の新監督に就任した落合さんは、新監督のインタビューで「現役の頃は報道陣と話すのは嫌だったから黙っていた。これからはそうはいかないけれど・・・・」と、言っていたように、私も親しかったわけではない。あいさつを交わす程度だった。それでも、落合さんのバッティング練習を見るのは大好きだった。ことに、ロッテ時代である。考えながら一打、一打に意図を持ってやっていた。いつ見ても自分のやり方ー「型」があった。積み上げていくということはこういうことなのだと教えられた。スポーツアナウンサーを作り上げていくのも同じことなのだ。そういった意味ではNHK時代の寂しい川崎球場の中継が多かったことが私の財産になったといえるだろう。
 ベースボールマガジンの「超野球学」を始めとする評論も素晴らしい。読む度に「なあるほどぉ」と分かった気にさせられたものだ。どちらかといえば、野球人が書くにしては理屈ッポ過ぎるほどで読むには忍耐がいる。これがまたいいのだ。おそらく落合新監督の野球はオーソドックスな理にかなった姿になるのだろう。「野球は簡単な方がいい」と言われたように、当たり前のことを当たり前にやることだろう。ただ、単純にやることが実は非常に難しいということを、ご本人が一番ご存知のはずだ。この人は必ず結果も出す人だと信じている。一度、放送席を一緒にしたかったなぁ。
 バレンタインさんがロッテに復帰するようだ。95年は志し半ばだっただけに心残りがあっただろう。ここ3年間のロッテを観てきたが、このティームはAクラスの戦いが出来る力を充分に持っている。明らかに「戦い方」の問題なのだ。何かの「きっかけ」と「勝負勘」があれば戦力のバランスはとれている。その上、「日本一」といえるマナーのいい応援団もついているのだ。バレンタインの下、ファイトとセオリーの野球が出来れば必ずやBクラスと決別は出来るはずだ。
 西武からオリックスに移る井原監督も楽しみだ。ある意味では、今度が監督としての真価を問われるだろう。西武のことは何から何まで知り尽くしていた。一昨年、新監督になった時「私が他の監督と比べて一番有利な点は、選手の性格まで知り尽くして采配出来るところです」と語ったのが、強く印象に残っている。今度はそうは行かない。新しい環境の短期間で「人心を掌握できるか」がポイントだと私はみている。私の勝手な監督の第一の条件は「人心の掌握術」。井原さんの財産の多かった西武時代と違う、オリックスでのお手並みをとくと拝見したいのだ。
 西武の伊東新監督は苦労するだろう。自分が抜けたマイナス、松井のFA問題と色々ある。幸いオーナーは伊東新監督に時間をくれそうだ。じっくりタイプの伊東さんだから、私が期待するのは数年先の伊藤監督が自らの手で作りあげたティームを待ちたいのだ。
 最後にお話し上手の堀内新監督、「巨人軍は紳士たれ」の伝統は守って欲しいものだ。野球は髪でするものではない。だが、若者に迎合することはないのだ。期待は野球漬けの猛練習、ファームを充実させ育て上げて欲しい。



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