Column (2003/10/06号・週刊ベースボール掲載分)
◎星野監督の「俺流」

 9月15日、甲子園、優勝を決めたお立ち台での星野監督のインタビューは、まさに天下一品、アナウンサーのやりとりが終わった最後の挨拶はNHK時代のキャスターぶりを彷彿させるものだった。まして、翌日まで知らされなかった母の葬儀の日に決めた優勝のあと、悲しみの心をひた隠し、ユーモアを交えての挨拶は絶品だった。関西のお笑いタレントやしゃべくり上手も及ばない星の一流の話芸だと、私はTVを見ながらうなずくのだった。
 義理と人情、マナー、公私のけじめなど社会人としての基本に彼はこだわる。亡き妻が語った「ナゴヤドームでパパの胴上げが見たい」というせりふが一人歩きを始め、報道陣はさかんに「名古屋で胴上げ」と言わせたかったようだ。しかし、彼は「プライベートなことなので・・・」やんわり矛先をかわしていた。

 神宮で私が「ナゴヤでよかったじゃない?」と言っても、この時だけは話をそらした。「胴上げの日」を問われ、初めて具体的に口にしたのは9月3日、「ナゴヤのあとの甲子園あたり(15日から)だと思っているんだ。地元でやれるのはそこしかないだろう」
 そう、星野監督はまずファンの気持ちに答えようとしているのだ。だから、プライベートなことは頑なにシャットアウトしようとした。母の死、葬儀に関しても選手にさえ知らせなかった。胴上げの日が葬儀だった。
 これほど勝負に徹し、ファンの声援に応えようとする星野監督なのに、一部とはいえ阪神ファンのバカ騒ぎは「親の心、子知らず」というのか、星野監督の心を踏みにじった行為としかいいようがない。すでにこのことを予想して、星野監督は「道頓堀川に飛び込む奴がいたら、来年の阪神の優勝はないと思え」とまで警告を出している。それでも5.300人もが飛び込んだそうだ。もう来年から当分阪神の優勝はないだろう。この1年、ティームを改革してきた星野監督だが、阪神ファンのマナーの悪さだけは変えられなかったことになる。
 星野監督はマナーに厳しい人だ。阪神の選手に金髪は見当たらない。もし、中村紀が来ていたらどうしたか、私は彼の打撃より髪の方に興味があったのだが・・・・
ただ髪については異論もあろう。なにしろ、世界柔道を見ていて、柔道のお膝下の日本に赤髪の選手が登場する時代なのだから・・・ただ、言えることはその場に相応しい立居振る舞いをすべきだと星野監督は考えているのだ。だから、マナーや言葉づかい、挨拶にも厳格なのだ。ベンチを訪れる先輩の評論家に対して、彼は話中でも、必ず立ち上がって帽子をとって挨拶をする。
 優勝が決まった翌日のスポーツ5紙に彼は個人で一面を使った御礼の広告を出した。それぞれ星野語録に味わいがあった。
 「日本経済のために優勝したんやないで(笑)」
 「あーおもろかった。あ〜しんどかった(笑)」
 「勝ち組、負け組み。そんなん、ないんや。」
 そして一番よかったのは「昨日、球場に来られなかった人たちにもありがとう 応援感謝・星野仙一」だろう。甲子園の優勝インタビューでも語ったこの心。日本語も正しい。ら抜き言葉が横行する中、「来れなかった」ではなく「来られなかった」。さすが、かつてのキャスターだ。
 勝因については、既にマスコミや評論家が語り尽くしているので、敢えていうまでもなかろう。彼一流の選手操縦術と人心掌握術が18年ぶりの快挙に結びついた。
 「友よ、日本シリーズでの健闘を祈る」



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