Column (2003/08/25号・週刊ベースボール掲載分)
◎心の栄冠は君たち、皆に輝いている

 今年も夏空、白雲、アルプス、六甲を背景に、全国高校野球選手権大会の熱戦が甲子園球場で展開されている。伝統を守りながらも、甲子園は少しずつだが変化しているのを実感する。
 歴代首相で初めて甲子園の開会式に登場した小泉首相の心のこもった祝辞と見事なカーブの始球式。今までの開会式とは一味変わっていて、私が開会式を実況していたらどんなコメントをつけるだろうと、思わず瞑想したものだ。

 このところの変化の一つに、坊主頭が増えてきたことに気付かされた。以前は戦時中がまだ残っていると言われたりしたもので、長髪が主流になりかかったのだが、坊主頭がスキンヘッドと英語で言われるようになると、若者のファッションの一つとして受け入れられているようになったようだ。私にも経験がある。「高校野球をやりたい。でも坊主頭は嫌で嫌でたまらず、一大決心でツルツルにした」苦い思い出がある。今では阪神のムーアやバスケットの神・マイケル・ジョーダンを見習うのか、高校球児の心境も変化してきたようだ。
 そして、健康面も配慮して、甲子園のベンチ入り登録が9年ぶりに増えたことである。しかも、一度に2人も増えたのは初めてのことだ。選手は18人、記録員1人、監督と責任教師を含め21人に上がる。甲子園に出場を決めた監督が、最も悩み苦しむのは、ベンチ入りの決定だという。勿論、数が増えてもそこには必ず「選択」がついてまわることに変わりはないにしても、選手にチャンスが広がり、健康の面でも配慮しやすくなるわけだ。私がしゃべっていた頃には、怪我人続出でボロボロになった試合も正直言ってあったのだ。
 大会前に、ベースボールマガジン社の高校野球「珠球の名勝負と名場面」の中で、朝日放送の名物アナウンサーだった植草貞夫さんと対談をさせてもらった。お読みくださった方もいらっしゃることだろう。ファンのアンケートの結果と私たち放送席から伝える者では、若干の違いがあった。それは、どうしても新しい最近の試合が上位にきてしまうことだ。又、どんなに凄い投手や打者でも、ライバルに恵まれないと名勝負にはなりにくいものだ。そして、甲子園を愛するファンの声援と拍手が名勝負を作り上げていくことになるのだろう。
 この夏は、久しぶりに話題も豊富だ。春夏の連覇のかかる広陵。東北の怪物ダルビッシュ投手、東京都立の星、雪谷は個人的にも学生時代に過ごした街のすぐ近くだし、昔の国立のときは、予選も甲子園もしゃべったので興味深い。義足で今年も甲子園を走りまくる今治西の曽我選手は多くの人々に勇気と可能性を教えてくれる。
 選手だけではない。甲子園で放送者として最も影響を受け、野球だけでなく人の生き方を教えてくれたのは優れた監督さんたちだった。それぞれに個性的で、己に徹し、選手と共にある監督群像である。私と時代を共有した方は、多くの方が引退されたり、鬼籍に入られた。
 常総学院の木内監督も最後の夏になる。思い出を一つ、それは先輩の西田善夫アナの話だ。決勝戦の試合前、ベンチの選手に向かって「負けても準優勝旗があるからな」と木内さん。「夏は優勝旗だけですよ」と西田アナ。「だってさぁ、じゃあ、取るっきゃぁないなぁ」どっと、選手達の笑い声。「のびのび乗せて」優勝旗をさらってしまったのだ。
 歴史に残る名勝負を期待しよう。



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