Column (2003/08/11号・週刊ベースボール掲載分)
◎五輪はプロのものでいいのかなぁ

 ロサンゼルス五輪のことだ。中継が終わってリトル東京をスタッフと歩いていると、野球代表ティームの団長の山本栄一郎さんと監督の松永玲一さんにバッタリ出くわした。「島村さん、勝ったんですよ、優勝したんですよ、金メダルですよ」「えっ、本当ですか?信じられないなぁ」「公開競技とはいえ、ほとんど同じデザインのメダルですよ」
 祝杯を挙げたあとなのだろう。嬉しくてたまらない二人の笑顔を、今でも私は忘れない。高校野球の解説ではマイクを共にしてきただけに、他人事とは思えなかった。

 ただ、優勝の瞬間に立ち会えなかったのが残念でならなかった。当時、野球は公開競技として、初めて五輪に登場した。この五輪からBS放送が始まり膨大な量の放送が始まったが、公開競技の野球の中継はなかったのだ。ティームは都市対抗で活躍した社会人が主力、広沢、秦ら数人の学生が入っていた。
 その後、ソウル・バルセロナ・アトランタまでは全員がアマチュアのティーム編成である。アトランタの日本ーキューバの決勝戦のマイクの前に私はいた。世界一のキューバに勝てるわけはない。大差の試合にならないことだけを私は祈っていた。放送直前に準決勝で日本に敗れた米の放送局のコメンテーターが声をかけてきた。「エニスィング イズ ポッシブル(やればできるよ)」
 前半で4点差をつけられた日本だったが、中盤に松中(現ダイエー)の満塁ホームランが飛び出し同点に追いついた。試合は盛り上がり、ひょっとすると世界最強のキューバに勝てるかなという雰囲気さえあったが、最後はキューバのパワーに屈した。それでも、私は満足の銀メダル放送だった。今でも「エニスィング イズ ポッシブル」を懐かしく思い出せるからだ。
 今、プロ野球で活躍している選手で、アマチュア時代に五輪などの国際大会を経験、それが刺激となって夢を育ててきた選手は沢山いる。大リーガーに飛び出していった野茂英雄などは、その典型である。アマチュア時代に五輪を目指したり、経験することは、プロとして金を稼ぐこととは違った価値があると考えていいのだろう。
 7月17日、長嶋全日本はアテネ五輪出場をかけた札幌でのアジア野球選手権の代表候補33人を発表した。全員がプロである。前回のシドニーでは24選手中、プロは8人だった。今回は「長嶋ドリームチーム」だそうだ。韓国・台湾もプロ中心だし、代表権を得るのはやさしいことではないだろう。しかし、一人もアマチュアが入っていないことに、野球関係者やマスコミは疑問符を持たなくていいのだろうか。日本の五輪至上主義にオリンピックアナウンサーだった私は批判したいことがいくつかある。その一つが「プロだけのオリンピック」問題だ。五輪はもともと、アマチュアのものだった。五輪に入っていない人気競技はゴルフ、ラグビー、アメフトなどいくつもあるのだ。五輪だけが全てではないし、プロだけの五輪種目が増え続けるのなら別のプロ五輪にすればいいのではないか。
 アマチュアの最大の夢をつぶして、野球の将来の発展に向けて禍根を残すことはないのだろうか?。五輪の出場権を得たとして、来年八月のアテネ五輪の最中のプロ野球はどうするのだ。各ティームの主力が抜けてペナントレースが行われるとなれば、プロとしての興行に最善を尽くしているとはいいかねる。最も、五輪大好きの日本人はこれを是認するのだろう。米大リーグは3A以下の選手しか派遣しない方針である。自分達のやっている市場で夢を売る。プロに徹するのはどちらなのだろう。この続きは、いずれまた書きたい。



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