Column (2003/04/07号・週刊ベースボール掲載分)
◎名刺がわりのご挨拶

 今週から1年間、本誌のコラムをお引受けすることになりました。長かったNHKのアナウンサー時代は高校、大学、社会人、プロ野球、MBL、オリンピックなど、色々な野球のマイクを握ってきました。今は、J・SKYスポーツで年間50試合近くのプロ野球中継を担当しています。若いスタッフの熱に私もNHK時代以上に心を燃やして映像を語っています。
 これからの放送は、BS・CSの時代です。私の年でなくては語れぬ勝負の心をさりげなく伝えたい、そしてマイクでは表現しきれない思いやエピソードをこのコラムをお借りして綴っていきます。

 まず、ひとつだけ私がプロ野球アナウンサーになった時からの座右の名をお話して始めることにしましょう。
 鶴岡一人さん、あの1713勝の最多勝監督が私のデビューした頃のお相手でした。プロ野球放送に、ちょっと慣れてきた2年目のオープン戦の放送、生意気だった私は、いい気になってエラーした選手を批判しました。「キャンプでどんな練習をしてたんでしょうねェ〜、鶴岡さん」「いゃあ〜、その通りですなぁ。大差がついて油断したんでしょう。ワシもやってしまったことがありますわ」
 放送が終わって一杯やりながら鶴岡親分は私にこう言った。「シマちゃん、あんたのいう通りや。だがなぁ、選手には妻も子も親もあるんや。放送、聞いとるんや、そのことは知っときなはれ」
 厳しいことを言っても「暖ったかさ」があった「親分」の言葉を放送だけでなく、文章でも忘れずにしたいのです。
 まもなく、ペナントレースが開幕します。キャンプ、オープン戦と去年に続いて今年も「星野阪神」が話題の中心でした。正確に言えば、松井と星野阪神だったでしょう。去年は夏まででしたが、今年は秋まで話題とペナントレースの中心にいるような気がします。去年、星野さんは負け犬根性を払拭するために、自ら動き、喋りティームを鼓舞しました。今年は肝心なところは慎重に、言葉を選んでいます。ティーム内の競争と層の厚み、実力がつき始めているのです。24人の新しい顔が入りました。新人もいれば、移籍組、しかも名前のある選手が、一時期でも活躍した選手がほとんどなのです。
 「星野再生工場」という週刊誌の見出しをチラッと見ました。中身は読んでいませんが、おおよその察しはつきます。たしかに今年はトレードのベテラン勢を再生し、生え抜きと噛み合わせれば、Aクラスどころか優勝争いも十分に期待できます。ただ、星野監督の視線は、そのずっと先を見ていることに気づいて欲しいのです。「日本の野球で一番欠けていて、遅れているのはファームのあり方だ。ここで選手を作らねば駄目なのだ。いい素材が入ってきても、教育に問題がある。今年、俺は二軍の木戸監督に一番プレッシャーをかけているんだ。木戸がどうするかが将来のポイントだな」「わしは、もう疲れた。やることが多すぎる」と言いつつ、遠い目をして先を見ている静かな星野仙一でもあるのです。

阪神タイガース
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