まず、ひとつだけ私がプロ野球アナウンサーになった時からの座右の名をお話して始めることにしましょう。
鶴岡一人さん、あの1713勝の最多勝監督が私のデビューした頃のお相手でした。プロ野球放送に、ちょっと慣れてきた2年目のオープン戦の放送、生意気だった私は、いい気になってエラーした選手を批判しました。「キャンプでどんな練習をしてたんでしょうねェ〜、鶴岡さん」「いゃあ〜、その通りですなぁ。大差がついて油断したんでしょう。ワシもやってしまったことがありますわ」
放送が終わって一杯やりながら鶴岡親分は私にこう言った。「シマちゃん、あんたのいう通りや。だがなぁ、選手には妻も子も親もあるんや。放送、聞いとるんや、そのことは知っときなはれ」
厳しいことを言っても「暖ったかさ」があった「親分」の言葉を放送だけでなく、文章でも忘れずにしたいのです。
まもなく、ペナントレースが開幕します。キャンプ、オープン戦と去年に続いて今年も「星野阪神」が話題の中心でした。正確に言えば、松井と星野阪神だったでしょう。去年は夏まででしたが、今年は秋まで話題とペナントレースの中心にいるような気がします。去年、星野さんは負け犬根性を払拭するために、自ら動き、喋りティームを鼓舞しました。今年は肝心なところは慎重に、言葉を選んでいます。ティーム内の競争と層の厚み、実力がつき始めているのです。24人の新しい顔が入りました。新人もいれば、移籍組、しかも名前のある選手が、一時期でも活躍した選手がほとんどなのです。
「星野再生工場」という週刊誌の見出しをチラッと見ました。中身は読んでいませんが、おおよその察しはつきます。たしかに今年はトレードのベテラン勢を再生し、生え抜きと噛み合わせれば、Aクラスどころか優勝争いも十分に期待できます。ただ、星野監督の視線は、そのずっと先を見ていることに気づいて欲しいのです。「日本の野球で一番欠けていて、遅れているのはファームのあり方だ。ここで選手を作らねば駄目なのだ。いい素材が入ってきても、教育に問題がある。今年、俺は二軍の木戸監督に一番プレッシャーをかけているんだ。木戸がどうするかが将来のポイントだな」「わしは、もう疲れた。やることが多すぎる」と言いつつ、遠い目をして先を見ている静かな星野仙一でもあるのです。 |