■ Column No.229 (2007/06/12デイリースポーツ掲載分)
● 赤土の覇者

 全仏オープンテニスの男子決勝戦はスペインのラファエル・ナダルが大会3連覇の偉業を達成した。今、私は戦い終わったメインコートのフィリップ・シャトリエの赤土を見下ろしながら、放送席で戦いを振り返っている。この6月3日に21歳になったばかりのナダルの強さと精神力はどうやって培われたのだろう。僅か4年前にデビューしたナダルは鮮烈なサウスポーとして、パンタクールのパンツ、バンダナ、ノースリーブのシャツ、躍動感と跳躍力でコートの中を駆け巡る若者だった。昨年までの全仏の二連覇はスタンドファンの大声援も味方につけていた。
 ところが、今年のフランスのテニスファンの殆どは、世界ランク1位・全仏に勝てば生涯グランドスラムを達成出来るロジャー・フェデラーへの大声援の中だった。決勝までの道のりを見ても、フェデラーが今大会に賭ける執念と改良は凄まじく、サーブから攻撃的に攻め、その力強さで、どちらかと言えば、フェデラーに分があると見た人が多かったように思う。
 立ち上がりの第1セットでフェデラーは3ゲームも、あと1ポイント獲ればナダルのサーブをブレーク出来るチャンスがあった。しかし、ナダルはことごとく盛り返し追いつき、逆転してサービスゲームをもぎ取ったのだ。試合全体では、何と17回もあったブレークのチャンスを、王者フェデラーはたった1回しかものに出来ず、59回ものエラーを重ね自滅の道を辿ってしまったのだ。
 テニスの永遠のテーマは「あと一本」をどうとるかだろう。逆にいうと、あと一本と追い詰められても、最後まで諦めない心の強さ、強靭なフィジカル、確実な技術に裏づけられた自信なのだろう。
 ナダルの高速のスピンをかけたショットと重いボールはあのショットメーカーのフェデラーの返球を尽くコート外に追いやっている。恐らく、身体を壊す寸前までの厳しい練習とフィジカルの訓練を続けているのだろう。親友の先輩・カルロス・モヤとの対決が準々決勝であったが、2人はリラックスの時間があると、プレステーションのゲームに熱中するそうだ。そして、勝ち負けの賭けは、負けた方が、腕立て伏せやうさぎ跳びの罰をさせられるという逸話を記者会見で話していた。対戦は、どうやらモヤに分があり、ナダルが罰のトレーニングをやらされているということなのだろう。
 子供の頃からナダルのコーチをしている叔父のトニーさんが、こう言っていた。「目標を達成するには、もっと、もっと精進しなくてはね」ナダルの次の目標は得意のクレーコート以外のウインブルドン、全米、全豪になる。そして、来年のここ、ローランギャロスではボルグしか達成していない4連覇に並ぶことだろう。弱冠21才、「年齢って一体何なんだ」と問いかけて見た。



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