■ Column No.222 (2007/04/24デイリースポーツ掲載分)
● 声の力

 フリーのアナウンサーになって仕事の幅は広がった。スポーツアナウンサーとしての野球、テニス、バスケットなどの実況だけでなく、講演、司会、執筆、ナレーション、大学教授と有難いことに忙しさに追われている。勿論、スポーツをテーマにした内容がほとんどだ。司会や講演、執筆もスポーツに関わるものがほとんどである。
ところが、先週の土曜日、合唱団の演奏会の司会を頼まれた。学生時代の仲間たちが今でも歌い続けているグループなので、二つ返事で引き受けたのだが、近づくにつれて畠違いのステージとあって気が重くなってきた。人前で話すことは何でもないないのだが、「巧く出来るかなぁ」と不安になる。もっとも、マイクの仕事はいつでも同じだ。何千回、何万回とやってきても、完璧な仕事はないのだから同じ心境といえばいえるのだろう。
 練習を見に行き、昔の仲間が40年、50年と歌い続けている姿を見、ハーモニーを聞き胸が熱くなった。スポーツアナウンサーとしてNHK時代から歌う間もなく世界や日本の各地でマイクを握り続けて来ただけに「かくも長き不在かな」と自戒の念に駆られたものだ。
 合唱団は早稲田大学のコールフリューゲルのOBたちで、「三月会・さんげつかい」、毎月第3月曜日に集まって歌っている。平均年齢68歳。コンサートは東京上野の文化会館小ホールで行われた。
声は鍛えていると変わらないものだと、改めて思った。年を重ねると人の身体は衰える。髪も薄く、白く、顔の皺も深く、目も見えにくくなる。でも鍛えた声の力は若々しくはりがある。それぞれの歌う姿は若い頃と変わらない。身体をスイングする人、顎を突き出す人、直立不動の人、斜に構えて歌う人、若い頃のままなのだ。勿論変わっていることもある。かって一緒にテノールのパートにいた者が一番低いベースで歌っているのには驚いた。最高齢78歳の方は数日前に膝の手術ををしたのに杖をついてステージに上がりロシア民謡のソロを歌い上げていた。
 昔の仲間に囲まれての司会は感慨深く心和むひと時だった。マイクを向けた先輩は「夢は、80歳を過ぎたら、そのメンバーだけでワンステージ歌ってみたいのです」
平均年齢68歳のコーラスグループに誰も「じじい声」の人は居なかった。鍛えた声の味わい深い存在感を感じた。この次は私も司会ではなく、コーラスメンバーとしてステージに立ってみたいと思うのだ。



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