■ Column No.210 (2007/01/30デイリースポーツ掲載分)
● フェデラー時代

 メルボルンで行われていたグランドスラムの幕あけとなる全豪オープンテニス、男子は世界ランク1位を3年も続けているロジャー・フェデラーが圧倒的な安定感で2年連続3回目の優勝を飾った。何しろ負けないのだ。今大会も決勝戦までの7試合で1セットも失うことのないパーフェクトの勝利だった。全豪オープンの歴史で失セットなしの優勝は、なんと1972年のローズウォール以来ということだから、フェデラーは磐石の攻防で誰をも寄せ付けない完璧なテニスを展開したということになる。
 ただ、いつも楽に勝っているわけではない。必ずどこかに勝負どころがあるのだが、フェデラーは常にその場面をしっかり、確実に自分のものにしてしまうのだ。決勝戦のフェルナンド・ゴンサレス戦がまさにそれだった。チリのゴンサレスは今大会絶好調、ヒューイット、ブレーク、ナダル、ハースと、次々に強豪を連破、準々決勝のナダル戦は激しく動くナダルを封じ、準決勝のトミー・ハース戦では、ミスが僅かに3本だけ、ハースに試合をさせない会心の勝利を挙げていた。初めてグランドスラムの決勝戦に登場したゴンサレスはフェデラー相手でも自信に満ちていた。その分だけ、気負いがあったのかも知れないのだが、持ち前のフォアの強打で互角に打ち合った。先手をとったのはゴンサレスで、第1セット第9ゲームで先にブレークする。勝負のあやは第10ゲームにあった。このサービスゲームでゴンサレスが取ればこの試合は分からなかっただろう。しかし、あと1ポイントでセットを失うというピンチを2回も背負いながらフェデラーは耐え、盛り返し、ブレイクのお返しをし、タイブレークまで持ち込んで逆転して第1セットをとってしまったのだ。こうなれば、王者フェデラーのペースで試合は展開する。攻防の切り替えの素早さ、全てのショットに難点がなく、ゆったりと美しいフォームから自在に変化する動きの早さ、まさに「心技体」に充実した王者のテニスを作り上げているのだ。「精神力と足を使ってテニスをやっている。どれだけショットをコントロール出来るかにかかっています。パワーに頼りすぎるのは問題なのです。もう、パワーだけでは勝てません」
 優勝した瞬間、コートに大の字に横たわり、喜びを表わしたフェデラーだが、今年は去年のように涙を流すこともなく、落ち着いた笑顔でトロフィーを受け取った。表彰式のスピーチもユーモアーも交え、熱戦の後の場内をなごませてくれる素晴らしいものだった。これでグランドスラムの優勝は10回、試合の連勝数も36と延ばし続けてきた。
 あとは、未だ優勝がないクレーコートの全仏、負けない王者の視界はこれからローランギャロスに向けられるだろう。



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