Column No.206 (2006/12/26デイリースポーツ掲載分)
● お風呂の友

 最近はやりの温泉もどきの銭湯に我が家ははまっている。よく行く宮崎や長野では串間や日南、白樺湖湖畔の温泉がご贔屓なのだが、自宅のある横浜では大型銭湯に日参する。泡風呂やサウナをゆっくり廻り約一時間、のんびりと過ごすのが楽しみだ。思いがけず、知人と一緒になることもある。
先日も体操のロサンゼルス五輪の個人総合の金メダリストで今は体操協会の強化委員長を務めている具志堅幸司さんとサウナの中で「いやいや、久しぶり」と裸の付き合いとなった。金メダルから二十年たったとはいえ、具志堅さんの身体は贅肉はない。こちらは腹ボテ、隠しようも無い。
昔、ソウル五輪の時、すでに解説者になっていた具志堅さんから興味深い話を聞き、その後、若い選手たちに聞かせたエピソードがあった。
「体操は決まった演技をその通りにやるのだから、五輪の舞台で落ち着いてやるコツはあるんですか」と聞いたら、具志堅さん、こう応えた。「五輪のその日が一番楽なんですよ。四年間、毎日の練習の最後は五輪の会場を想定してやりました。名前を呼ばれ、手を上げ、演技し、終わって拍手に応える。これを、繰り返し、繰り返しやったのですから、金メダル当日はその通りにやるだけでした。それと、どんな大会でも手をぬくことはありません。小さな大会ほど、絶対に取りこぼせないのですから、むしろ真剣にやりました。チャンピオンは、出るからには負けてはいけません。相手に隙を見せたら、気持ちを楽にさせてしまいます」
 この話を聞いて以来、私の教訓にもさせて貰ってきた。仕事に差をつけない。小さな仕事ほど手を抜かずにやろうと。
 今の体操界は息つく暇のないほど大会に追われている。世界選手権は毎年ある。ユニバーシアードとアジア大会が入ると、毎年、ビッグイベントが続く。強化委員長としては仕事に追われっぱなしになっているようだった。毎年の世界選手権で体操界は潤っているが、テレビマネーの力でオリンピックのスケジュールまで午前中に変えられてしまうとなると、選手が最高のコンディションで戦えなくなることに、懸念を感じるのは、私だけではないようだ。変化する世界のスポーツ界の動きの中で、具志堅さんが、どのような舵取りをして行くのか、注目したいし、応援もしたい。お風呂で一緒になった翌日の新聞の囲みにこんな記事が載っていた。その日、体操の学会に参加した具志堅さんが「昔は、練習の最後に優勝インタビューもやったものです」



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