Column No.196 (2006/10/18デイリースポーツ掲載分)
◎ 去りにし君に贈る

 また、一人、素晴らしい野球人がユニフォームを脱いだ。片岡篤史選手の好打、攻守の15年間を讃えるとともに、私は彼のマナーと野球に取り組む姿勢の見事さに、いつもプロを感じていた。引退試合がPL学園時代の春夏連覇を決めた甲子園、相手に高校時代からの心の友・立浪和義がいて、プロ入りのスタートだった日本ハムがこの日、10月12日、パリーグの優勝を決めたのだから、片岡選手にとっても有終の美を飾るに相応しい舞台だった。しかも、最後の試合に2安打するなんて、野球の神様は「努力の人」にちゃんと報いてくれたのだと、私は嬉しかった。勿論、全ては彼の力なのだが。
 1987年8月21日、PL学園春夏連覇のかかった朝、立浪主将、片岡らは、3年間、厳しい練習に明け暮れたグランドに集まり、雑草の草むしりをして、甲子園の舞台に臨んだ。当時の監督・中村順司は寮の窓越しにこの光景を見て、勝負以上に子供たちの平静さと信頼を確信した。「この子たちは本物になった。今日の決勝戦はだいじょうぶだ」と。
 日本ハムの主力だった片岡にこのことを訪ねたことがあった。「普段から、グランドの草むしりや寮の便所掃除は当たり前のようにやっていました。決勝戦だからといって、特に意識したわけではないんですよ。そやけど、心を清めるというのは、気持ちのいいことでしょう」
 阪神に入ってからだっただろうか、日本ハム時代だったのか、私の記憶は定かではないのだが、話をしていて、突然、グランドで取材をしている報道陣や評論家の服装について、ぽろっともらした言葉が私には忘れられない。「だらしない格好の取材陣は嫌ですね。グランドは俺たちの仕事場、戦う神聖な場所なんだから、土足で踏み荒らされたような気になって、情けないですわ」
 スポーツの現場の服装は、確かに難しい。カメラマンや技術の人は汚れることが多いから、かなりラフな格好も許されるだろう。しかし、試合前、グランドに入って取材する記者や放送局員、評論家はそれなりの節度が必要だろう。片岡選手のマナー、報道陣との受け答え、いつもきちんとしていて素晴らしかった。片岡選手は代打に向くタイプではないだけに、ここ2年間は耐え続ける日々だったに違いない。第二の野球人生はこれからだ。おしゃべりで面白おかしい評論家が受ける時代だが、正統派の真面目さが向いいる。マスコミに迎合することなく、「片岡流」を貫いて欲しい。橋本清も野村弘樹も、既に私はマイクをともにしているよ。



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