Column No.194 (2006/10/04デイリースポーツ掲載分)
◎ 引退と戦力外通告

 巨人の桑田投手の去就が注目を集めている。本人は、まだ燃え尽きてはいないようだ。引き際にどう立ち振る舞うかは難しいことだ。引き際を大切にあっさり幕を引く人もいれば、ぼろぼろになるまで現役に拘った選手もいた。
 ロッテの諸積兼司選手は素晴らしい演出のセレモニーの中、幸せに引退していった。俊足攻守の諸積選手はかってはレギュラーとして活躍、ダイビングキャッチなど、ファイト溢れるプレーが売りだった。ここ数年は代走、守りとベンチからの登場がほとんどだったが、いつも明るくベンチを盛り上げ、練習熱心な態度は若手選手の手本だった。控えに廻ってからの方が、むしろ私は彼の価値があったのではないかと思えるほどだった。引退の最後の打席、スタメン一番、見事にセンター前にヒットを放ち13年間の現役にピリオドを打った。試合後の引退セレモニーはスタンドを埋め尽くしたロッテファンの「モロ」コールの中、涙と笑いの中で行われた。秋晴れのマリンスタジアムのホームベースに雨用のシートが敷かれ、たっぷり水がまかれた。そうだった。激しい雨で試合が中断すると、諸積選手はダイヤモンドを全力疾走、泥んこになってホームベースに滑り込み、雨の中で再開を待つスタンドのファンを喜ばせてくれた。
 「さあ、諸積、最後のランニング、まだまだ早い、廻ってきた。三塁廻った。さよならダイビング、ヘッドスライディング、ホームイン」私も渾身の力で実況した。諸積のくしゃくしゃの涙の顔、そして、ライトスタンドは見事な真っ白の紙ふぶき、幸せに諸積は球界を去っていった。
 楽天の飯田も、涙、涙で20年の現役生活に別れを告げた。守りと足で十分にやり遂げたはずだ。カツノリも父・野村監督の見つめる中、ティームメートに胴上げされ引退した。偉大な父を引き合いにだされ、辛かっただろうが、いつもティームを盛り上げる姿は、彼の人柄のよさがにじみ出ていたようだ。
 一方では、祝福されず、人知れず、毎年何人もの選手がユニフォームを脱ぐ。このところ、新聞の片隅に載る「戦力外通告」の文字を見るのは辛い。少しでも、活躍した時があった選手はまだ救いがある。「あの頃、よく打ったなあ、いいピッチャーだったのにねぇ」しかし、一度も一軍に上がらないまま、不完全燃焼で球界を去る選手も大勢いる。コーチや評論家になれるのは一握りの選手しかいないのだ。どうか、そこのところを高校の指導者は今のうちに話してあげて欲しいのです。「華やかなプロ、成功するのは、ごく一部、好き嫌いで球団を選ぶじゃない」と。



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