Column No.182 (2006/07/12デイリースポーツ掲載分)
◎ 手術の成功を願って

WBC世界野球で世界一に輝いた瞬間の写真です


 胃に腫瘍が見つかり、王監督が休養した。来週の手術に向けて、今王さんは連日、色々な検査を行っていると聞く。さぞ、不安な日々を送っていることだろう。ソフトバンクホークスの中継が多い私は、王さんに接する機会が多い。ただ、休養の記者会見があった時は私の担当ではなかったので夏休みをとり、長野の蓼科でテレビをみていた。王さんの別荘は蓼科の三井の森にあることを、以前聞いていた。「監督をやっていると、避暑地で過ごしたり、ゴルフもご無沙汰。別荘には、いつ行ったのか覚えが無いほどですよ」
 監督という仕事は想像もつかないほどの激務だという。このところ数年、試合前の王さんと私の会話は健康に関することが多い。「検査は必ずやらないとね。年に2回、しっかりやっておけば安心ですよ。放射断層撮影というのは、ぜひやった方がいいですよ」御自分の重要な立場を考え、王さんは以前から体には気を配る慎重派のように見受けられた。ただ、7月1日のロッテ戦の試合前、いつになく若い選手や不振の選手に身振り手振りでバッティングの指導に時間をかけていた姿に「いつもと、ちよっと違うなぁ」と私は感じていた。
 今思うと体調が思わしくなく、覚悟をしていたからなのかと推察してしまうのだ。テレビ中継でティームが負けている時の王さんのアップが写ると、「疲れがたまっているのかな。表情が厳し過ぎるなぁ」と心配することもあった。
 WBCは間違いなく激務であった。現役の監督がティームづくり、負けられない国際大会の指揮、終わってすぐのペナントレース、如何に強い身体と精神力の王さんといえども、悲鳴をあげたいのに、それに耐え続けなければならなかった心情を思うと察するにあまりあるではないか。
 WBCの優勝は、まさに王貞治監督のリーダーシップに全てが凝縮されていたといえるだろう。豪華メンバーをずらっと並べた米は、勝って当たり前といえるティームだったが、惨敗した。監督はテレビの解説者で、試合中にのんきに放送のインタビューを受けていた。要するに、王さんとはものが違うのだ。ただ、世界一と引き換えに癌の手術を受ける身体にまで身を苛んでいた王さんの立場を思うと辛くてならないのだ。
 王貞治は正攻法の人だ。正しいことをやりとげようとする。そして、誰にでも等しく心接し、心配りを忘れない人だ。試合前、報道陣に分け隔てなく会話をし、記事や放送のヒントをくれる。12球団の監督でただ一人、王さんだけである。「世界の王」が報道陣に歩み寄り話をしてくれるのだ。
 病院に隔離されてしまった王さんと、話ができないのが残念でならない。手術の成功を祈り、球場で元気なユニフォーム姿に、またお会いしたい。



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