Column No.169 (2006/04/05デイリースポーツ掲載分)
◎ 銀ちゃん、デビュー

 開幕したプロ野球、新鮮な魅力は新人の華やかなデビューにある。まして、最も難しい、時間がかかるといわれるのがキャッチャーだ。パリーグの開幕の日、高校出のルーキーとして開幕にマスクをかぶるという大物のデビューに立ち会うことが出来た。ライオンズの炭谷銀仁朗捕手18歳の堂々のスタートだった。なにしろ、高校出の新人捕手が開幕にマスクをかぶるは51年ぶりのことだった。ノムさんも、森さんも、炭谷を起用した伊東監督も、大リーグに旅立った城島もなしえなかった快挙である。
 立ち居振る舞いがとても高校出の18歳とは思えない落ち着き、自然な仕草だった。打席に入ると身体の手前でぐるっ、ぐるっとバットを廻す。もう、プロで何年もやっているような態度だ。開幕戦は西口が打たれティームの勝利に結びつかなかったが、初ヒットは打った。2戦目、一つ先輩の湧井と組んだ十代バッテリーでオリックス戦に勝つた。4戦目の北九州でのホークス戦では1試合に2ホーマー、しかもプロ入り1号は満塁という華々しいデビューになった。
 千葉でのロッテ戦の前に伊東監督に炭谷について聞いてみた。「開幕スタメンはいつ頃決めたんですか」「3月の中旬頃ですかねぇ」「新人の頃の伊東捕手と比べてどうですか」「いゃあ、凄い奴ですねぇ。僕は、先輩の前で、ただ、ハイ、ハイとしか言えなかったのにねぇ」
 丁度、その時、炭谷が打撃練習でゲージの近くにきた。自然な笑顔で帽子をとり、大きな声で「よろしくお願いします」と挨拶、伊東監督はこう話を続けた。「あいつは、高校時代、捕手としての色々なことをみっちり仕込まれているんですよ。平安高校には捕手出身のコーチがいたんですって。高校のティームでは捕手を教える人はあまりいませんからねぇ」名捕手として西武の黄金時代を築いた伊東さんが話すと、説得力がある。「探せば、逸材はいるんですねぇ」実は伊東監督は昨年のドラフトで思い通りの補強が出来ず、がっかりしていたのだ。自分が監督になって「ポスト伊東」の課題が解決しなかったこの2年、銀ちゃんは監督の期待に応える好スタートが切れた。しかし、試練はこれからだろう。日曜日の試合では鎖骨にボールが当り退いた。捕手こそ「無事これ名馬」なのだ。果たして、どんなタイプの捕手になるのだろうか。「ホームランとささやき」のノムさんか、アーチストのぶちやんか、V9の名捕手森さんか、クレバーで好打の古田か、パワーの城島か、はたまた、勝負づよく投手の持ち味を生かした先輩・伊東捕手か、「今は、毎日、毎日、一試合、ワンプレーが勉強です」と銀ちゃんは爽やかに答えている。



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