Column No.129 (2005/06/08デイリースポーツ掲載分)
◎ それぞれの復活

 全仏オープンテニスの男子は19歳になったばかりのラファエル・ナダルが初出場で見事優勝を飾った。どんなボールにも対応する素晴らしいショットとアグレッブなフットワーク、斬新なファッション感覚、派手なガッツポーズとテニスファンが期待していたとおりの活躍は初登場とはいえ、優勝候補に違わぬ快挙といえるだろう。
 しかし、アルゼンチンのマリアノ・プエルタとの決勝戦を記者席で観戦していた私は、プエルタに「勝たせたい」と願うようになっていた。7歳年下の、人気と実力のスターに対し、ノーシードのプエルタは終始攻めまくった。失敗しても諦めず頑なに強いボールを叩いた。派手なオーバーアクションのナダルに対し、プエルタは大事なポイントでしかガッツポーズはしなかった。しかも控えめだった。日本のテニスファンでもプエルタの名前は聞いたことがある程度の選手のはずだ。今年の選手紹介の分厚い名鑑にもプエルタの名前はなかった。彼は昨年1月、ドーピングの陽性反応が出て、9ヶ月間の出場停止処分を受けていた。従って、去年はほとんどプレーが出来なったのだ。「悪いことは克服した。過去のことは振り返らない。この瞬間を楽しみながら、最高のプレーをしたい」準々決勝、準決勝で彼の試合を担当した私はひたむきに攻める彼のテニスに心動かされた。闘争心は生きていくうえで欠かせないものなのだ。ナダルに敗れたが試合は押していた。何より、満員の観衆がスターのナダルを上回る声援を送っていた。ナダルのガッツポーズが「ガキっぽく」見えたのは私だけではあるまい。
 女子決勝は正直いって「凡戦」だった。エナン・アルデンヌが強すぎたのか、地元のメアリー・ピアスが違う舞台にきてしまったからなのか、いずれにしても決勝戦とは言いがたいワンサイドゲームでセンターコートはしらけ気味だった。ただ救われたのは表彰式でのピアスの涙ながらのスピーチだった。泣きながらピアスはつまらない試合にしてしまったことを素直に観衆に謝った。かっては傲慢でフランス人なのにフランスから見放されていたかつてのチャンピオンが怪我と不幸を乗り越え、人の痛みを知るプレーヤーとして成長した証たったのだろう。
 2回目の優勝を飾ったエナン・アルデンヌも病と故障から完全復活を遂げた。テニスが出来なくなるかもしれないと不安な日々を送ったビールス性疾患と腰痛を克服したら、やっぱりエナンは強かったのだ。苦しみや悲しみを経験し、それを乗り越えると、選手は一層魅力的になるのだろう。



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