Column No.89 (2004/07/28デイリースポーツ掲載分)
◎女の執念

 アテネ五輪まであと半月、五輪の華といえばやはり水・陸だ、水泳、陸上で世界をリードしているアメリカの選考会の結果を見て、初めて五輪を占える状態になる。アメリカは毎回、五輪直前に選考会を行う。わかりやすい一発勝負、ベストコンディションを維持するのは直前の暑さの中で行う。以前、五輪アナウンサーだった頃、全米陸上を取材し、よくこんな暑い劣悪な上体で行うものだと驚いたものだが、そんな中で勝つことが五輪必勝法の一つなのかもしれないのだ。
 陸上の選手代表名簿の中に、女子100Hのゲイル・ディバースがいるのには驚くというか感歎というか「まだやっていたのか」と、わが目を疑うほどだった。彼女は今年37歳になる。ハードラーとして世界のトップにありながら、なぜ過去四回の五輪で金メダルはおろか、メダルに縁がない。私が放送していた92年のバルセロナでは専門でない100Mで優勝してしまった。陸上の花といわれる100Mの番狂わせの金メダル、私もいささか慌てたことを思い出す。これで得意の100Hとの2冠達成かと思いきや、ハードルは足を引っ掛けて失敗してしまった。次のアトランタもまた100Mで勝ったのにハードルは駄目だった。
ハードラーとしての意地か女の執念なのか、彼女は今度も全米選考会を僅差で勝ち、五大会連続の代表権を得たのだ。世界選手権で3回も勝った本職の障害レース、黙々とただ一人で練習を続けてきた37歳の執念、私は何をおいても見届けたいと思っている。

 水泳女子短距離のジェイニー・トンプソンも四大会連続出場を果たした31歳のスプリンターだ。彼女のこだわりはこうだ。すでに五輪では八個の金メダルを持っている。ところが、なぜか全てリレーなのだ。クロールとバタフライが得意の彼女はフリーとメドレーの両方に使える便利な選手だ。私が実況していた頃も、優勝候補の筆頭だったのに、なぜか単独種目では勝てなかった。10代の少女だったトンプソンも31歳、最近は母を失い、失意の中から頑張ったと聞く。リレーでのメダルはまた増やすことだろうが、個人の金メダルが取れたら、どんな喜び方をするのだろう。戦う選手の生き方をかいまみると、五輪は「頑張れ日本の絶叫」だけではない楽しみ方もあるのだ。



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