Column No.81 (2004/06/02デイリースポーツ掲載分)
◎赤土に住む魔物


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 真っ赤なクレーコートで戦う全仏オープンはいよいよ終盤、今日からベスト8の戦いに入っている。
 今年は前半から波乱続きで解説者泣かせの大会になっているのだが、2回戦で男女のディフェンディングチャンピオンが消えてしまった。男子のフェレロは肋骨を痛めており、痛みをこらえてのプレー、女子のエナンは休養明けで試合勘が戻らなかった。1968年からのグランドスラムになってから大会の1周半ばで前半の優勝者が敗退したのは初めてである。
 その他にもアガシは初戦で無名の選手に、ロディックも2回戦、フランスのエース・グロージャンはまったくの無名、イタリアの選手にやられてしまった。仏のレキップ紙は「グロージャン地に落ちる。フランス人にとっては半分葬式みたいな日になってしまった」と、サッカーの大事な試合があるのに、一面のトップにとりあげていた。
 それにしても、フランス人の愛国心は大変なものだ。フランス人選手が登場しようものなら、大声援とウエービングで何度も試合が中断されてしまう。審判が何度も「静粛に、ありがとう」えお連呼しても聴いてはもらえない。ロディックがやられた相手はオリビエ・ムティスという日本ではあまり知られていない選手だった。もっとも、仏では若いころから期待されていた「天才選手」だったそうなのだが、飛行機が嫌で、海外には行きたがらない、熱戦を展開しながらも惜しくも敗れるという「ちょっと変わった選手」だった。ロディックは相手と、フランスの愛国心の大歓声とウエービングと戦わねばならず、いらいらも募り敗れてしまった。毎年のことだが、赤土とフランスは苦手のようだ。
 魔物とは、どうやら選手の内に住む心のあり方のような気がする。グラスやハードコートのように豪打、強打よりラリーとテクニックと粘りが必要となる。魔物は選手の耐える心を色々と試しているのやも知れぬ。
 ところで、久しぶりにパリで過ごしていると、大会ではフランスのお洒落な演出と愛国心を感じ、町に出ると、人々は生活を楽しみ、マイペースで過ごしていることを強く感じるのだ。町を歩くと、人々は良く食べ、よく飲み、よく喋っている。街角のカフェ、バー、レストランで思い思いに楽しんでいる。夢中で弾む会話、静かに本を読む人、ワインとビールの酒盛り、みんな人生を楽しんで、時の流れに身を置いている。日本のように電車の中で携帯とにらめっこ、激しく指を動かし続ける寂しい若者の姿はどこにも見られない。みんな茶髪の同じ姿の日本がなんだか惨めになってきた。日本の若者はもうしようがない。帰ったら私はもう少し生活を楽しんでみよう。パリのように往かずとも・・・・・



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