Column No.80 (2004/05/26デイリースポーツ掲載分)
◎全仏オープン始まる


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 今年も初夏のパリで赤土との戦いが始まった。全豪、全英、全米とグランドスラムはそれぞれのお国柄とスポーツの文化が感じられ、それぞれに違う楽しみ方がある。
 今週から始まった全仏オープンはパリ郊外、ブローニュの森の南端のローランギャロスが舞台だ。
 この季節のパリは日本で言えば初夏、風は少し冷たい。四つの大会の中ではお洒落な、それでいて選手と観衆との距離感がなく、アットホームな雰囲気に溢れている。たとえば昨年オープンしたテニスの博物館は「テニジアム」といわれ、テニスとミュージアムを一緒にした造語だ。フランスのテニスの歴史と文化に溢れており、昔使われたラケット、衣装、ボール、写真などお宝物がずらっと展示されている。
 今年は初めてその博物館でドローといわれる組み合せ抽選会が公開で行われた。選手たちにも好評で、ディフェンディングチャンピオンのエナンも「すごく興味があった」と語っている。
 月曜日の開幕カードを実況した。去年の全仏、全米、そして今年の全豪と勝ち続けてきたジェスティーヌエナン・アルデンヌの登場だった。エナンはウイルス性の疾患でここ二ヶ月は休養の期間、5月に入ってから練習を再開していた。記者団の厳しい質問攻めの中で彼女の答えた印象的な言葉を紹介しておこう。「大丈夫なんですか?」「私にはチャンピオンとしての責任があります。コートに出て、テニスをエンジョイします」「初戦はナーバスになるでしょう。それが普通です。」「今回はまた違う大会であり、みな違う状態なのです」「ただ、私のゴールを少し変えました。テニスを楽しむ心を大事にしようと思っています」21歳の世界チャンピオン、心のあり方は年齢ではないようだ。
 開幕戦の相手、仏のサンドリーヌテストゥはエナンより11歳年上、結婚後、昨年長女を出産して今年の二月コートへ帰ってきた。こういった対戦はそれぞれの生き方が感じられて、興味深い。エナンも子供の頃に母を失い、父と兄弟とも別れ、不幸な青春時代を過ごしてきた。去年のこの大会で、「子供の頃、母とここで全仏を見て、必ずいつか優勝する」と約束し、その願いを果たした経緯がある。
 試合はエナンのゲーム間が戻らず、ダブルフォルトを繰り返したが、ラリーを繰り返し集中してピンチを逃れると、粘るテストゥとフランスの大声援を振り切り、一回戦を突破した。改めて、実力とはこういうものかと知らされた。今週、来週とWOWOW の中継をご期待下さい。



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