Column No.74 (2004/04/14デイリースポーツ掲載分)
◎特別なマスターズ


 メジャーに勝てない男といわれたフィル・ミケルソンが、ついにマスターズチャンピオンになった。距離が出る、小技も早い、ハンサムでナイスガイ。スターの要素を兼ね備えたミケルソンが、ここ10年以上もタイガーの後塵を配し続けてきた。アーニー・エルスと並んだオーガスタの18番グリーン、ミケルソンは渾身のバーディーパットを強めに打った。カップ左側から勢いよく白球は沈んだ。タイガーより遥かに早くゴルフ界に鳴り物入りでデビューしたナイスガイの歓喜のフィナーレだった。
 フィルにとって、今回は47回目のメジャーの戦いだった。毎回、優勝候補にあげられていた。インタビューではいつも「勝てないのは何故か」と問われ続けてきた。私は彼がアマチュア時代から全米オープンに出場した試合を実況してきた。最近では全米プロで最後のパットを外し優勝に手の届かなかったシーンも伝えてきた。それだけに、今度の強めにしっかり打ったウインニングパットが最高に嬉しかったのだ。今年のフィルは確かに変わって見えた。身体と精神面のトレーニングをしっかり積んでいることが伺えた。何よりも自然体で試合の中に身をおいていた。新しい境地に到達していたのだろう。
 TVを見ていて、解説の中島常幸さんが指摘していたように、歩く姿、表情、視線にその変化が出ていたのだ。「名は体を表す」というが「心は体に現れる」ということも実感したものだ。
 祝福を贈った妻エミーと三人の子供たちに囲まれ、過程にも恵まれているミケルソン。そして、彼を愛する多くのゴルフファンがいることも私は知っている。フィルの誕生日が全米オープンのスタートに重なったことがあった。一番ティーグランドに登場したフィルをスタンドのギャラリーはハッピバースデーの大合唱で迎えた。あの時のミネソタの空の青さと合唱を私は忘れるものではない。妻エミーの出産と優勝争いの最終日がかさなりそうになったことがあった。記者団の質問に彼は答えた。「勿論。妻の元へ行く。メジャーのチャンスはこの日だけではない」
 家族を愛し、ギャラリーに愛されるミケルソン、今年のマスターズは特別でハッピーエンドな大会だった。



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