Column No.70 (2004/03/17デイリースポーツ掲載分)
◎ 放送技術の発展


 今から40年前の春、新人アナウンサーだった私は東京・世田谷の砧にあるNHKの研修所と技術研究所に通っていた。「アナウンサーなどなれっこない」と思っていただけに不安と期待の入り交じった複雑な心境の日々を過ごしていた。
 先週、その放送技術研究所が、地域の人々との交流を目的にした「ヒーロー誕生の瞬間〜スポーツ中継技術の発展〜」というイベントを開き、その司会と講演を私は任された。放送の基本と発展は技術革新にかかっている。
 特にスポーツ番組の技術は五輪などのビッグイベントがあるたびに大きく進歩してきた。スポーツの迫力と感動を伝えるために、色々な技術が開発されてきたのである。この日、私は40年前の東京五輪で使われた接話マイクをつけてしゃべってみた。このマイクは帽子の横にマイクをつけたもので、周りが煩くてもその音を拾わず、顔を激しく動かすことも出来る画期的なものだった。それにしても、今被ってみると重いのだ。よくこんな重さとうっとうしさの中で4〜5時間もしゃべっていたものだと思う。
 今の接話マイクは改良に改良を重ねて、軽くて小さい。マイク一つをとっても技術の進歩はすごいのだ。長野五輪のスケートでは、リンクの下に40もの氷柱マイクをセットして選手の滑る音を拾っていた。清水宏保の金メダル実況をした私だが、技術者のすさまじい努力も知らずにしゃべっていたわけで、なんだか申し訳なくなったほどだ。
 まだ開発中の最新技術も紹介された。サッカーのオフサイドを示すラインを見せる装置、ハイスピードカメラを使ったスローモーションの精度を猛烈に高め、一秒間に最大100万枚の画像を撮影し、スローにするカメラなど、技術革新は留まることがないのだ。今年はアテネ五輪の年、TVの技術者たちはまた何か新しい映像と音を届ける工夫をしてくるはずだ。どうも、進歩がなく、ただ、わめき、叫んでいるのはアナウンサーと解説者とキャスターと称するタレントどものようだ。そして、それを陰であやつるディレクター達よ、技術の進歩に相応しいスポーツ放送を製作して欲しいものだ。



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