Column No.45 (2003/09/17デイリースポーツ掲載分)
◎運命(さだめ)

 甲子園で優勝の舞をしたあと、星野監督は柔和な笑顔で選手たちの喜ぶさまを見守っていた。TVを見ながら祝福を送っていた私は、受話器を取り上げ、米・ボストンへ国際電話をする。「和華ちゃん、おはよう!起きてた?」「はい、おじさま!」と元気な声が返ってきた。「お父さん、今、胴上げされたよ!」「本当ですかぁ?よかったぁ」「いま、甲子園のTVを見ているところ、お父さん、嬉しそうで優しい顔しているよ」「そうですかぁ」としんみり。「あっ、いま日本からのTVが始まりました」
星野監督の分身、姉の千華ちゃんは優勝の瞬間と胴上げを見届けたはずだが、妹の和華ちゃんはこの8月から、ご主人の転勤でボストンに住む。かわいい孫・仙太君ともしばらくの別れが始まっていた。


デイリー9/16付

 阪神が優勝に向かってつき進んでいく中、TV中継に映し出される星野監督のアップの表情に、時折言い様のない深い悲しみや無常を感じることがあった。血圧が異常に高く、体調がすぐれないからだと思っていたが、それだけではない厭世観のようなものがチラつくように思えてならなかったのだ。
 私は先週、9日、11日と神宮での放送担当だった。前日まではアメリカでゴルフとテニスの放送をしており、久しぶりの阪神戦の放送だった。「やあ、お帰りなさい。島村さんに、帰ってくるまでに決まってるねと言われていたんだが、まだですわ。」「いいじゃないですか。あんまり早いと日本シリーズにも影響するから・・・」
 次々と訪ねてくるTV局のキャスター達とは「ゴルフは飛ばなくなった」とか、「もう、お前は結婚は無理やろう。うちの選手にもおらんぜ」などとジョークの連発、これっぽっちも悲しい顔は見せない星野監督である。
 私もお母さんの病のことは知らなかった。自分の辛さを話す人ではない。耐えていたのだろう。ベンチで倒れたのも心労からだったのかもしれない。でも、公私のけじめをつけたい人なのだ。なんという運命の人なのだろう。胴上げの日が母の葬儀であったとは・・・・悲しみを乗り越え、戦いに身をおく運命を、いま星野仙一は亨受しているのであろう。阪神優勝でバカ騒ぎする若者に星野監督の心はわかるまい。

阪神タイガース


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