Column No.44 (2003/09/10デイリースポーツ掲載分)
◎あと一球

 先週、4日間も降り続いたニューヨークの秋の長雨の影響で、大幅にスケジュールの乱れた全米オープンテニスだが、最後はきっちりと帳尻を合わせ14日間の大会を終了した。それにしても雨を待つ粘り強さには感心するとともに、忍耐の限界もあるのだと放送席でキレる寸前だった。
 4日間、毎日12時間は待ち続けた。雨が止めばコートの雑巾がけ、整備が済んで、さあ試合開始と思いきや、また振り出す。その繰り返しを忍耐強く続けたのだ。いつ始まるか待ち続けた選手たちの心のあり方は厳しいものだっただろう。
 杉山愛の逆転負けは、いずれも2回の試合再開後のことだった。あきらかに相手の気迫が上回り、杉山の元気のなさが別人のように見えたものだ。
 大会は、ロディックとエナンの初優勝で幕を閉じたが、テニスも一球で流れが変わったり、勝負がつくことがある。あと一球が取れなかったために、逆転負けのドラマが展開された。女子準決勝のカプリアティはエナンを追いつめ、何度かマッチポイントを奪ったが、あと一本が取れなかった。エナンの凄さは追いつめられ、足が痙攣したのにも拘らず、タイムを取らず相手に弱みを見せなかったところだ。試合後カプリアティは「もう一人のカプリアティに負けた」と答えたように内なる敵が勝ちを意識させミスを呼んだのだろう。男子準決勝のロディックとナルバンディアン戦もそうだった。アガシが敗れ、「勝たねばならぬ」プレッシャーの中で、ロディックは守りのテニスでスタートし、2セットダウン、ナルバンディアンがあと1ポイントまで追いつめた。そこで、冷静に勝ってきたナルバンディアンが勝ちを意識した。力まず相手の豪打を利用しいたのが、勝負の一球を強打してミスをした。少ないチャンスを確実に活かす戦いはこれを境に変化した。豪打とエースでロディックは盛り返し、2セットダウンからの大逆転に成功したのである。
 最後まであきらめないことと、最後のツメの難しさを改めて感じさせて今年の全米オープンテニスは幕を閉じた。見上げるニューヨークの空は秋の色と高さだった。



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