アーサーアッシュスタジアムを埋めた2万人の観衆はスタンディングオーベーションで去り行くチャンピオンを迎えた。濃紺のジャケットにグレーのシャツ姿で登場したピートサンプラスは笑顔で歓声と拍手に応えていたが、鳴り止まぬ拍手に涙ぐみ、終にこらえきれずに泣き出した。腕を組んで泣き続けた。3分間は優に超える長い長い感謝の拍手とサンプラスの涙だった。
全米オープンテニスの始まった初日、ナイトセッションの合間にグランドスラムの14タイトルを取ったサンプラスの引退式が行われた。2000年ごろから勝てなくなったサンプラスが昨年の全米でライバル、アガシを決勝で破り復活を果たした。しかしサンプラスはその優勝が最後のチャンスだったことを知っていたのだ。
この一年休養を続け引退宣言の機会を伺っていたサンプラスが5回の優勝を飾った思い出の地でラケットを置いたのだ。
ベッカー、マッケンロー、クーリエたちの祝福の言葉に続いてサンプラスがマイクを握った。ライバル、コーチ、ファン、両親、妻と子に感謝したあと、最後の言葉で締めくくった。 「サヨウナラを言う時です」全てを受け入れ、静かな表情のサンプラスはかわいい男の子を抱いてアーサーアシュスタジアムを去っていった。髪の薄さに時の経過を感じさせられた。それにしても、テニスは厳しいスポーツだ。サンプラスは、まだ32歳の若さで引退したのである。
コート狭しと走り回ったマイケルチャンもこの全米を最後に引退する。チャンはインタビューで「全豪はゆったり、ウインブルドンは伝統の重み、全仏は情緒、そして全米は刺激」と4大大会の特徴を表現している。選手に刺激を与える全米はスターの登竜門と言われている。世代交代の男子テニス界、今年グランドスラムを手にしたフェレロ、フェデレ、アメリカの期待ロディックがテニス界をリードするのか、はたまた、サンプラス去って同世代を支えるアガシの一人旅が続くのか、全米オープンのWOWOWの放送で見極めてください。 |