スポーツ用品メーカーのミズノがスポーツの指導者とライターに贈るメントール賞とライター賞の授賞式が今年も先週の水曜日(2003年4月23日)に行われた。去年もこのコラムで紹介をしたのだが、今年はこの外、心を打たれたのでお話してみよう。
指導者に贈られるメントール賞の授賞式は11人、最優秀のゴールドに選ばれたのは女子ソフトボールの監督・宇津木妙子さん、シドニー五輪の銀メダルティームの監督である。「次のアテネは金メダルということで、ゴールドを下さったのでしょう」とユーモアたっぷりの受賞スピーチだった。
このミズノの賞の特徴はスポーツ文化の発展のためにスポーツに関する優秀な作品と著者を顕彰するライター賞を設けているところだ。今年選ばれた三作品のうちの最優秀賞は在日韓国人の慎・武宏(シン・ムグァン)さんの作品「ヒディング・コリアの真実」というW杯サッカーをテーマにした作品である。
選考理由によると、フース・ヒディング監督(W杯サッカー当時の韓国代表監督)と選手たちがいかに困難を乗り越えたのか、その真実とは何かを検証しており、歯切れの良い文章と取材力が評価されたのである。実は作者の慎さんにはもう一つのドラマがあった。3月にヨーロッパを取材旅行中の慎さんに、弟の専宏さんが急性心不全のため、30歳の若さで突然他界したことが知らされた。急ぎ帰国、家族、親類が集まり、悲しみの涙にくれている最中の3月5日、ミズノスポーツライター賞受賞の知らせが届いたのだ。弟の死に直面した武宏さんは、家族を顧みず海外を飛び回っているスポーツライターの仕事に、終止符を打つ覚悟をした。そこへ飛び込んできた受賞の知らせは、弟の無言の力となって武宏さんに勇気を与えてくれた。弟・専宏さんは「スポーツライターは事実を伝えるだけでなく、どう付加価値を付け加えるかで、感動や勇気をちりばめたドラマになる」と兄に話していたそうだ。表彰式の受賞スピーチ、兄は鳴咽をこらえて弟の忠告を披露した。くしくも、表彰式の前日が49日だった。
ミズノメントール、ライター賞は慎武宏、宇津木妙子さんだけでなく、14人の受賞者全員に「勇気を与えた」のだ。 |