スイミングマガジン・「2012年10月号」掲載記事
島村俊治の「アスリートのいる風景」(10月号)
◎ お疲れ様、ロンドン五輪

●ティームの勝利
 「康介さんを手ぶらで返すわけにはいかない」男子400メートルメドレーリレーの松田、入江、藤井のこの言葉がティーム力を一番適切に表現していたように私には感じられ、嬉しかった。オリンピックでその国の力を表わすのは何かと言えば、メドレーリレーに集約されると私は思ってきた。1970年の中盤から1990年代の後半まで、約20年、オリンピックや世界選手権を中継していた私は、リレーにもう一つ集中出来ない日本ティームに物足りなさを感じ続けていた。リレーは「おまけ」のように見えた。各種目のNOワンでティームを組むリレーこそが国と国との戦いになる。ティーム競技のあの一体感は個人競技ではなかなか表現できないものだ。サッカーやバレーの場内の盛り上がりとナショナリズムの高揚は「これぞオリンピック」だと実感する。競泳では、いつもアメリカの国とティームを意識させられて、正直、放送席で私は羨ましかった。

 このロンドンでの男子の銀、女子の銅メダルは、競泳の日本のティームの力の充実を示した最高のパフォーマンスであったと言えるだろう。「手ぶらで帰らすわけにはいかない」とした合言葉に、勝負は、レースは心の在り方で大きなプラスになるという「お手本」といえるのだろう。マスコミのクローズアップの仕方と私はちょっとばかり違うところがある。日本にとってのメドレーリレーのキイは最後の自由形・クロールにかかっている。マスコミは「北島」「聡美」を見出しにせざるをえなかったのは理解はする。しかし、メドレーで日本のウイークポイントは自由形のクロールだ。男女ともに私はハラハラしていたのだが、藤井拓郎と上田春佳両選手がメドレーの最高殊勲選手、付け加えるに加藤ゆか選手である。藤井はこの種目だけに賭けてきたし、上田も加藤もリレーに絞ってきた。自由形の最後の二人は、追われるというレース展開が予想されるプレッシャーの中でよく逃げ切った。出来ることならメダルを倍にしてあげたいほどだ。次はフリーリレーで世界と対等に戦える「ティーム力」を期待したい。

 戦後、最多となる11個のメダルを獲得した日本競泳陣、目標をクリアーしたことに賛辞を贈りたい。私が伝えていた頃は日本が誰も決勝に残らないレースを沢山放送したものです。当時は私がしゃべると金メダルと言われましたが、四位のレースがいくつもありました。金が獲れなかったことえの反省は色々と考えられることでしょう。ここ一番のレースの難しさは当日までのコンディショニングに尽きるでしょう。金メダリストはその日一日だけのチャンピオンです。こりがリーグ戦だったら勝率の高い選手がチャンピオンです。

 「ここ一番の勝負強さ」は永遠のテーマなのでしょう。マスコミのあおり過ぎることにも対応力は必要です。ッイッターやブログについても指導者は確固たる意見を持ってください。

●メダリストよ、踊らされるな
 メダリストになった瞬間から世間の見方が変わります。テレビは危険な魔物です。今の若い人はテレビに出ていれば何でも「わぁっ凄い」と思いがちです。これからは色々な誘いがあるでしょう。メダリストやオリンピック選手は自分が成果を出したスポーツだけに優れているのです。勘違いをしないでほしいのです。特に「可愛い」「美人選手」「女優に似ている」などとマスコミはチヤホヤします。テレビに出る時はしっかり番組の中身を知りましょう。皆さんはスポーツ選手でタレントではありません。私は個人的には俳優には敬意を表しますが、タレントには興味がありません。スポーツの成果でタレントになっている人には直のことです。スポーツ中継、ニュース番組とバラェティの区別ははっきり意識してほしいのです。女優との写真のツーショットの新聞を見て私はがっかりしました。やらせるマスコミにウマウマと乗せられています。指導者は選手のこれからの生き方にも示唆を与えられるように願っています。教えるのは泳ぎだけではありませんから。

 最後に、平井伯昌コーチがヘッドを退任することをニュースで知りました。素晴らしい指導力で戦える日本ティームを作り上げたことに敬意を表すとともに、今後の活躍も期待しています。



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