スイミングマガジン・「2012年04月号」掲載記事
島村俊治の「アスリートのいる風景」(04月号)
◎ 水球の健闘に想う

 
 1984年、ロサンゼルス以来の男子水球の五輪出場は今回もあと一歩で届かなかった。ヨーロッパでは人気のある水球だが、日本で脚光を浴びることは今まであまりなかった。かって、日体大の黄金時代に百何連勝などと新聞の片隅に載る程度だったが、今回は新聞の取り上げも大きく、スポーツ紙で一面を使って紹介された記事を私は嬉しく読んだものだ。一月の終わりに千葉国際総合水泳場でのアジア選手権の開催は、水連が日本開催に力を注いだ証であり、昨年からの一か月を超す豪州合宿、欧州プロリーグで活躍、経験した代表は過去最多の九人、この二年間メンバーを固定するなど、並々ならぬ決意で臨んだものだった。

 クエート戦の勝負どころ、中国戦の決定力不足を見ると、どれだけ厳しい試合をティームとして数々経験しているかがポイントのように思える。この二月、私はプロ野球のキャンプ地を二十日程回っていたのだが、野球でも水球でも、「ティーム力」と「勝負運」は同じようなものだと思うのだ。二月の初め、ロンドンを逃した男子水球の主将・青柳勧選手の新聞記事をキャンプ巡りの最中に興味深く読んだ。高校三年から五輪予選を四回戦った青柳選手が「今までで最強のティーム」と臨んだ最大のチャンスを生かせなかった。しかし、私が「凄いな」と唸ったのは、破れても逃しても「バーンアウト」せず、水球のさかんな新潟・柏崎のクラブティームで練習を始め、「2016年のリオデジャネイロを目指す」と語ったことである。四年後は三十五歳になるはずだ。例え、オリンピックに行けなくとも、これこそが「オリンピック精神」であり、「心の金メダル」だと私は信じている。

 NHK時代八回もオリンピックの実況を経験した私だが、今では「オリンピック批判家」を自認している。今の五輪の出場規定に「許せない」と想う競技がいくつかあるからだ。テニスはプロの世界ランキングで出場する。ロンドンから復活するゴルフもそうだ。プロテニスプレーヤーもゴルフプレーヤーも五輪は五番目の大会に過ぎない。彼らの願いはプロの四大トーナメントに勝つことだ。五輪は最大の目標のでなければならない。男子のサッカーも23歳以下の出場である。サッカーはワールドカップが最高の大会であることを認めさせたいのだ。「オリンピック批判家」の私は、だから五輪のテニスとゴルフとサッカーには、まったく無関心なのだ。こうゆうことを知っていると、青柳選手ら水球の選手達のオリンピックを想う気持ちが痛々しいほど伝わってくる。

 日本ではマイナーと見られがちな水球だがヨーロッパでのステイタスはケタ違いだ。随分昔の話で恐縮だが、1994年、イタリア・ローマでの世界水泳選手権の中継に出かけた時のことだ。競泳、シンクロ、飛び込みと三競技の中継はやったのだが、水球は日本が出ていないこともあってやらなかった。競泳は世界新が十個、シンクロは日本のメダルもあり私達は満足して最終日の放送を夕方終えた。すると、緑の松林に囲まれたメインプールに真っ赤な絨毯がしかれた。競泳の表彰式も終わったのに「何事が起こるのか」、迂闊にも私達放送スタッフは気付かなかった。すると、厳粛な開会式が始まったのだ。水球の決勝戦だった。当時、ライバルとして宿命の対決だったイタリア対スペイン戦、スタンドは競泳を上回る大観衆、サッカーの応援と同じ大賑わい。世界選手権の最終日、昼間に競泳を行い、最後に人気の水球がメインイベントとして行われることを私達スタッフは思い知らされた。「何でこの決勝戦を放送する計画を立てなかったのだ」と私は臍をかむ思いで会場を後にしたことを思い出す。

 アジア選手権で三位だった日本男子水球はロンドンの道を断たれた。実は、この大会の二位と三位は四月のカナダでの最終予選に出場できる権利があるのだが、強豪国が凌ぎを削る世界予選は「難しい」との判断から日本は派遣をしない決定をした。ティームゲームの海外派遣は財政的な余裕がないと大変なことはよく理解出来る。でも、ちょっと待ってよ。仮に、アジア予選を通って五輪に行けば、もっと強豪国の中で戦うことになるはずだ。「参加することは大事だが、如何に立派に戦うか」だと先月号でも述べたのだが、五輪に近い厳しい戦いになるだろう世界予選を「駄目でもともと」「ティーム力と勝負運」と思うなら、経験させてあげたかったなぁと想うのは、私だけだろうか。「お金がない」といってしまえば、勿論それが答えにはなるだろうが。

 四年後を目指して練習を始めた選手達に敬意を表します。「君達は五輪選手と同じです。でも、ここ一番の勝負強さをティームとして見つけてください」



--- copyright 2006-2012 New Voice Shimamura Pro ---
info@shimamura.ne.jp