この三カ月、東日本大震災、福島原発のニュースを見聞きするたびに皆さんはその都度、色々な意見や考えを持ったことでしょう。事態が刻々と変化していく中でこれほど考えさせられ、またどう行動すべきか、自分に何が出来るのかと問いかけたことは、あまりなかったのではないでしょうか。今、スポーツ界は危機を乗り越えつつあるように思われます。災害当初の「スポーツどころではない」状況から、スポーツを見たり、応援したり、またプレーすることで、勇気をもらったり、絶望に光を見出したりする感動的なエピソードに数多く接するようになりました。災害にあったことは悲惨なことであり、家族を亡くした方の喪失感は経験した者でないと、絶対に感じ得ないことでしょう。しかし、災害に遭遇した方が、健気に立ち向かおうとする姿に、むしろ勇気ややる気を貰ったと思えることが、数々伝えられてきているのではないでしょうか
四月十二日、プロ野球は選手会の立派な見識で約三週間遅れで開幕しました。あの震災直後の混乱の中で開幕せず、事態の少し鎮静化した中で迎えられたのはプロ野球の経営者の考えではなく、選手の世の中を見る目が正確だったということです。プロ野球選手は「野球だけじゃないんだ」ということを、堂々と立証したことに、私は大きな拍手を贈りました。楽天ゴールデンイーグルスの嶋選手がファンに伝えたメッセージ「今、スポーツの域を超え野球の真価が問われます。見せよう野球の底力、見せよう野球選手の底力、見せようファンの底力」
開幕の千葉QVCマリーンフィールドのロッテー楽天戦の放送席で私はマイクの前にいました。試合中に余震もありました。同点の七回、メッセージをファンに伝えた嶋選手が、打てそうにないほどの好投を続けていた成瀬投手から、なんとレフトスタンドへスリーランホームランを叩きこんだのです。嶋選手はホームランバッターではありません。去年、僅か三本しかホームランは打っていない選手です。
「見せたっ、野球の底力、見せたっ、嶋の底力」と私が絶叫したのは、言うまでもありません。「思いは叶う」という言葉を、私は昔から信じています。スポーツの世界には「何か思いがけないことが起こる」ことがあるのです。「思い」というより「念ずる」と言った方がいいのかも知れません。スイマーの皆さんも嶋選手の「野球の底力」を人ごとと思わず、自分にあてはめて見たらどうでしょう。私も「伝える底力」を有難く「キャッチ」しました。尤も、口で言っているだけではだめで、嶋選手は「やるべきことをやって、念じた」はずですね。
この震災ではあらゆるスポーツ界の選手やティーム、関係者が被災地、被災者のために協力を続けています。震災に会ったことは悲しく、悲惨なことでしたが、「心を繋ぐ」無形の力は得られたのかも知れません。
それにしても、非常時にこそ、リーダーの力、決断が問われます。私がスポーツ放送に関わって「有難かった」と感謝しているのは偉大なリーダーに巡り合え、珠玉の言葉を聞けたからです。
鶴岡一人さんという最多勝の名物監督は野球を戦争に例えてよく言われました。「指揮官がだめなら、部隊は全滅する」野球は、組織は監督の力量次第ということです。
V9監督として名高い川上哲治さんは「監督とは、身を捨てる覚悟が必要だ。その覚悟がない者はやるべきではない。」地位に固執しているような小人では駄目だ。
球界の紳士と言われた藤田元司さんは「出処進退を過たず」辞めれば済むということではない。
この大震災と原発の事故、現場の先頭にたち、次々と起こる問題に的確に迅速に「決断」をしなければ「名監督」にはなれません。そして、非常事態にこそ「身を捨てる覚悟」なのでしょう。政治や経済を論じているわけではありません。スポーツの優れた指導者と数々接してきたので、改めて、「スポーツとスポーツ人の力」を感じているのです。 |