スイミングマガジン・「2010年 4月号」掲載記事
島村俊治の「アスリートのいる風景」(4月号)
◎ オリンピック観戦記

 やっぱりオリンピックは面白い。殊に雪と氷を舞台にするだけに、必ずハプニングがある。優勝候補が勝てるとは限らない。世界記録保持者が絶対的ではなく、失敗する。かってスピードスケートで短距離の王者といわれたダン・ジャンセンが直前に姉の死があったりして、どうしても勝てず、「ジャンセンの悲劇」といわれ、語り継がれたことがある。最後のレースはリレハンメルオリンピックの千メートル、得意の五百にまた敗れ、悲劇は真実となっていた。ところが、最後の最後、しかも得意の種目でない千で金メダルを手にした。放送席の私は「悲劇」に「ハッピーエンド」もあったのです、とコメントしたことを思い出す。

 今回のバンクーバーで日本の長島圭一郎と加藤条治が銀と銅を獲得、バンクーバーでの最初の日本のメダルがダブルだっただけに大いに盛り上がった。特に長島はエリートコースの競技生活を送ってきたわけではなく、レースも一本目の六位から二本目で逆転しての銀メダルなので、競技者にとっては勇気や夢を与えてくれた選手といえるだろう。金メダルを狙っていた加藤の悔しさもよおーく判るのだ。しかも、金メダルの韓国・牟は強い韓国勢のトップではなく、どちらかといえば千を得意にしている選手だと聞く。これがオリンピックなのだろう。冬の五輪は氷や雪での転倒など「不幸」なシーンが多く、胸が痛む。世界記録を持ちながら、なぜか五輪に弱いカナダのウオザースプーンは、また負けた。長野では清水宏保のライバル、でも私は放送席で彼の「勝負弱さ」が最大の欠点と見ていた。今回、新聞のコラムを担当していた清水宏保が「日本人でないなら、ウオザースプーンに勝たせたい」と書いていたが、私も同感だった。ダン・ジャンセンのハッピーエンドはウオザースプーンには訪れなかったのだ。清水は常々「オリンピックは狙ってとるものです」と言っていた。「記録より勝つこと」しかも、金を狙えるポジションにいて、なおかつ「狙う」といえる心、まさにこれが王者の金メダルなのだろう。

 複合個人ノーマルヒルの小林範仁選手がジャンプのあとの距離で一時トップにたったレースを私は興味深々でテレビを見ていた。トップにたった時は信じられなかった。すぐに「スパートが早過ぎないのか」不安になった。一分程トップだった小林はあと六百でバテバテになり最後七位のゴールだった。正直、トップに立った時は興奮したし、「よくやった」と称賛を贈った。でも、インタビューはがっかりした。「あそこで我慢すれば最後まで接戦になったかも知れない。でも少しの間一番でいられ興奮した。テレビで見てもらえたでしょう」小林選手は自称「目立ちたがり屋」という。大舞台で戦うにはフィットする性格だと思う。レース前「女子アナに取材に来てほしいのにだれも来ない」などとレベルの低いことも言っている。メダリストとの差は明らかだ。スイマーのみなさんは、レース途中でトップに立って、テレビに映ってよかったなどと思いますか。「目立つことより、勝つこと」に徹すれば、小林選手にまたチャンスはあるとおもうのですが。

 国母和宏選手の服装の問題は人ごととおもわず、選手のみなさんはよく考えてください。コーチの皆さんはなおのことです。スノーボードは若者にフィットするナウいスポーツです。だからといって、国を代表する立場はどういうものなのかを忘れてはいけません。所属する東海大学のコーチに最大の責任があるでしょう。普段から国際大会、世界選手権、五輪とはどういうものか、何も教えていなかったのでしょう。教えることは競技の技術だけ、あきれ果てたコーチです。東海大学に抗議の電話が鳴りやまなかったのは当然でしょう。「代表チームのコーチがちょっと注意してくれたらよかった」などと自分がやらなかったことを棚に上げて、とんでもない発言さえしています。五輪代表チームのコーチも弱腰で注意もできないなども「五輪コーチ」の資格なしと言えるでしょう。JOC、SAJ、文部科学省などが厳しい指摘をしているなかで、橋本聖子団長が出場だけは許可してくれました。あの橋本聖子さんが選手の立場を考え「断腸の思いで」許してくれたのです。五輪の申し子といわれた橋本選手は礼儀正しい素晴らしい選手でした。どんなに辛い時、成績が上がらない時でも、報道陣の質問に丁寧に答えてくれました。私が取材してきた何万人の選手の中で「最高の受け答えを礼儀正しく」してくれた選手です。レースはすべて全力を出し切り転げまわってゴールしました。その橋本聖子さんに謝罪をさせ、温情裁定をさせたことを、国母選手は重く受け止めて欲しいのです。オリンピックのたびに考えさせられることが沢山ありますね。これも現代のオリンピックなのでしょう。



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