スイミングマガジン・「2009年04月号」掲載記事
島村俊治の「アスリートのいる風景」(04月号)
◎ 休む間もないスイマーたち

 北京オリンピックが終わっても、スポーツ界は忙しい。五輪の翌年と前年は世界選手権の年になる。以前、世界選手権は五輪の中間年に開かれていたが今は違う。五輪の翌年に開くのはどんな意味があるのかと私は疑問符をつけていたのだが、そうではないことに気付かされた。
 一月二十四日と二十五日に西宮市で行われたコナミカップの放送をジェイスポーツで今年も担当したのだが、世界選手権の年にあたるということで、参加した選手たちの意気込みが強く感じられ、オリンピック後で記録はでまいなどという感覚は昔話だということを知らされた次第である。オリンピックが終わると新旧交代が叫ばれるのだが、世界選手権のお蔭か、選手寿命が延びるという非常に好ましい状況がみられるのは嬉しいことだ。コナミオープンは毎年、トップ選手を招待するのだが、今年十二人もの北京代表選手が登場した。メダリストの藤井拓郎、次の日本のエース入江陵介らがこの冬もしっかり泳ぎこみ、トレーニングを重ねて日本選手権の前哨戦としてこの大会に臨んできていた。オリンピックで自分の精一杯の泳ぎをした選手、やり残したことを痛切に感じた選手など、それぞれオリンピックでの内容に違いはあるものの、新たなスタートに向けてモチベーションをしっかりもって泳ぎこんできたことが伺えた。アテネ代表でありながら、北京を逃した寺川綾、北京で決勝には残ったものの自分の泳ぎが出来ず落胆が隠せなかった種田恵がもう一度チャレンジする姿にスポーツ選手としての値打ちを見つけた思いがするのだ。五輪で好記録をだした二百バタの星奈津美は、そのことを自信に置き換え、バネのある体全体を使った泳ぎで自己ベストをマークした。「スピードをつけることとライバルと競い合って頑張りたい」と頼もしい答え、「ロンドンの星」になるやも知れぬ。思わず「がんばれよ。」と声をかけたくなる選手も沢山いた。それは期待されながら惜しくも北京行きを逃した選手がもう一度チャレンジしようとする姿だった。
 平泳ぎの三輪芳美は「オリンピックを逃した悔しさから引退も考えました。でもまた続けてみようと思ったら練習の姿勢も変わってきました。年末年始も泳ぎこんできました。自信も出てきました」立石諒も「オリンピックの悔しさから切り替え、ウエイトでパワーをつけてきました。四月の選考会で世界選手権の代表権をとります」
五十バタに勝ち、百で伸び盛りの星と大接戦を演じた土肥亜也子にも拍手を送らずにはいられない。二十八歳と女子の最年長になるが、挑戦する気持ちは衰えていなかった。「確かに、疲労は残りますが逆に一本一本集中して泳ぐようになります。ターンを強化して得意のドルフィンキックに磨きをかけます」と笑顔いっぱいのインタビューの答え。コナミにはこの大会の放送の解説者大西順子さんのように、二十九歳でオリンピック代表になった先輩もいます。土肥さんにこの記録を破ってほしいと思うのですが、どうでしょうか。これも立派なモチベーションになります。確かに年齢と闘うのは大変です。その年になってみなければわからないことがあるからです。ダラ・トーレスにくらべたらまだまだたっぷり時間は残っています。
 北京組や北京を逃した選手たちの健闘もさることながら「怪童」の泳ぎにほれぼれしました。去年、次々と中学記録を作った小堀勇気選手のスケールの大きな泳ぎと堂々たる体格、中学生とは思えぬインタビューでの立派な態度です。日本の水泳界で「怪童」と言われた選手はロサンゼルスの頃の緒方茂生君です。小堀君はそれ以来の怪童といえるでしょう。いま体も記録も伸び盛り、この大会の二百自由形で自分の記録を更新しました。小堀君は石川県能美町の小さなスイミングクラブで練習しています。「キックがまだ弱いです。ただ狙っていたタイムが出たのは嬉しいです」。中学生として最後の大会にきっちりと結果を出せるのは「大物」の証拠だろう。高校に進学して早々の日本選手権で世界選手権の切符を手にすることができるか、興味深々である。堂々とした体と態度は立派で頼もしい。そういえば、森元総理大臣、ヤンキースの松井秀喜選手も同じ町の出身と聞く。
 日本記録を期待された入江陵介選手は得意の二百できっちり日本記録を更新した。去年のこの大会に続いてだ。期待されている時にきっちり答えを出せるのがスターの条件だといわれる。インタビューの答えもしっかりと状況を把握した上で「現在としてはいいタイムです。五輪でメドレーリレーを見ていて羨ましかったので、これからは五十、百も積極的にやっていきます。世界選手権や国際大会で確実に表彰台に上がれるように。そして、いつか、世界記録を」
 北京五輪から八月のローマ世界選手権へ、選手たちのターゲットは変わった。四月、古橋さんの記念プールのこけら落としが代表選考会の日本選手権になる。スイマーたちの健闘を期待しよう。



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