スイミングマガジン・「2007年04月号」掲載記事
島村俊治の「アスリートのいる風景」(4月号)
◎ 第21回 「リラックスの方法論」

 アナウンサー、ジャーナリストとしてスポーツを伝える仕事をして40年を超えるのだが、教えることはどうも苦手だ。かつて1年間だけ大学の講師をしたのだが、授業態度の悪さに業を煮やし、叱ってばかりいては血圧も上がるので止めさせてもらったことがある。尤も学生のせいにばかりは出来ず、1週間に1日の授業の日が来るのが憂鬱になり、教え方も巧くいかなかったというのが正しいだろう。
 ところが、今度は大学院の客員教授で集中講義の形で3日間やってくれればいいということでお引き受けしてしまった。テーマは「スポーツジャーナリズム特論」。
 私が関わっているスポーツ界のあり方を私の視点でお話することになった。大学の講義は百人から2百人のマスなので、一人ひとりの学生と意見を交わすことは、やりにくく、どうしても一方通行になってしまう。しかし、大学院は10人前後で十分に対話が出来るし、大学院に迄進んでくる学生なので心構えは一般の学生とは違う。
 スポーツジャーナリズムはマスメディアのあり方をテーマにするのだが、昨今のマスメディアは本質を履き違え、基本的な過ちを犯すケースが立て続けに起こっている。マスコミ=メディアは正しい情報、、速報性、批判・論評、そして啓蒙・広報、という要素から成り立っているのだが、この当たり前のことが当たり前に出来ないケースが続出している。大豆の効用など視聴率を上げるために正しくない情報をエンタティンメント風に仕立て視聴者をだましたり、他社の原稿をほとんどそのまま盗作したりする信じがたい行為がテレビや新聞で行われているのだ。尤も、私の授業のネタとしては学生に考えてもらう上でも格好の教材になったことはいうまでもない。
 プロ野球のキャンプをまわっていて、非常に興味深い話題が新聞にもとりあげられていたので、学生らも意見を述べてもらい、なかなか面白かったので、スイマーの皆さんはどう考えるか、紹介してみたい。テーマは「キュンプの休日の過ごし方」である。合宿やキャンプの休日をどうリラックスするかは、結構難しい問題である。リラックスしすぎて、疲労が翌日に残っては休養の意味がない。かといって、ダラダラして気が緩んで休みが苦痛になっても問題である。練習休みはティームスポーツと個人スポーツでは、恐らく違いがあるだろうし、ベテランと若手、新人ではこれも違いがあるだろう。
 授業のテーマにしたのは、野村監督の楽天の、沖縄キャンプでの休日、注目のルーキー・甲子園を沸かせた田中将大投手と野村監督のやりとりである。マーくん・こと田中投手はキャンプの休日の2月3日と7日にゴルフを楽しんだ。ところが、71歳の野球のことは知り尽くした老監督には、このことが気に入らない。休日明けにノムさんはマー君を呼びつけ、約20分、ネチネチとお説教をした。「何のための休日や。休む時はしっかり休め」。
 マー君は休日の2日間とも、ホテルの敷地内にあるミニゴルフをやりリラックスしたのだった。しかし、ノムさんは期待の大物ルーキーだけに体調を気にしてお説教に及んだのだ。
 ところで、田中投手は大物だった。普通、18歳のルーキーが球界の最古参・71歳の野村監督にゴルフ禁止令を言われたら神妙に従うはずだが、マー君は只者ではなかった。「ホテルの部屋に1日缶詰になっている方が疲れますよ。ミニゴルフは積極的休養です。記者のみなさんも休みの日はペンもカメラも忘れて、一緒にやりましょうよ」ときた。
 プロ野球のキャンプ地は、昔は休日のゴルフはほとんどの球団が禁止だった。しかし、最近は休日には伸び伸びと体を動かし、楽しんだ方が却っていいとする球団が増えている。確かに、マージャンやパチンコで暇つぶしむをする方が身体のケアには良くないはずだ。この休日の過ごし方は監督、コーチのそれぞれの考え方があるから、どちらが良いとはいえないだろう。要は指導者の考え方なのだ。野村監督は自身もゴルフはやらない。かって他のティームの監督をしていた時も禁止の年が多かった。プロはいつも野球だけを考えて過ごさねばならない。休みでも準備の日と考えねばならないのだと説いている。若い田中投手は「積極的休養日」と考えた。老練の野村監督は「準備のための休日」と考えている。
 この話は日刊スポーツの記事をもとにキャンプでのあり方を話し、大学院生の皆さんに討議してもらった。野球のコーチをしている学生は「田中君の気持ちは分かるが、指導者としては、ノムさんに賛成します」陸上競技部の現役部員は「田中投手の休日の過ごし方は良いですね。僕もそうしたいです」。
 意見は様々に分かれて面白い。それぞれの立場によって考え方は違うのだろう。ただ、このケースが新人の田中投手、期待している大物ルーキーでなかったら、中堅やベテランの選手だったら、ノムさんの言い方は違っているだろうし、勝手にしろとほうって置くのかも知れない。
 水泳の指導者の皆さんは、選手の皆さんは、どう思われるでしょうか。



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