● 芸能風がいいのか
大手のスポーツ用品メーカーの管理職で、かっての高校野球の球児として活躍した方とスポーツイベントの演出について雑談した時のことだ。「今年、プロ野球の千葉ロッテの開幕直後の始球式を見て、私は感激したんです。かってロッテが優勝した時のメンバーが守備位置につき、ボールまわしをして、金田正一監督にボールを渡しました。そしてカネやんが村田兆治に、今でもマスターズリーグで140キロの速球を投げるまさかり投法の始球式。素晴らしかったんです。でも驚いたのは、若い社員たちの見方は違うんですねぇ。彼らは、タレントたちの始球式に馴染んでいるのか、上戸彩の方がいいなぁとか、可愛いこちゃんに限るなんていうんですよ。どう思いますか」「スポーツに関わっているおたくのような会社の社員がそんな感覚とは驚いたねぇ。こんな風にしたのはプロダクションやプロデューサーの芸能好みなんたろうね。日本ではスポーツ文化が育たない証拠の一つだろうねぇ。球団やスポーツ団体の盛り上がりさえすればいいというのもあるんだろう。」
日本のスポーツ界は歴史を築いた先人を大切にしない傾向がある。開会式や閉会式、試合を盛り上げるやり方の中に大切なものがある。それて暖かい心と感動してもらえる演出が必要なのだ。めったやたらと歌い上げて叫ぶ場内アナウンスなどはしらけてしまう。来場者をもてなす心がなく、独りよがりの声を聞かせられるのはたまらない。
●日本選手権の演出
久しぶりにプールサイドにお邪魔した。懐かしい顔があちこちにいる。古橋名誉会長にご挨拶に伺う。相変わらずお元気でよく話される。その関係者控え室で、これまた超お元気な葉室鉄夫さんにお会いした。あの戦前のベルリンオリンピックの平泳ぎの金メダリストだ。あのベルリンは前畑秀子さんの「前畑頑張れ」の放送があって、前畑さんがすっすり有名になった。葉室さんのレースは実況がなかった。ベルリンの世界選手権でお会いしたのが懐かしく思い出された。ローマ五輪の銀メダリスト浜口喜博さんもお元気たった。今の若い方はご存じないかも知れないが、映画俳優としても活躍された。大映が「ターザン」の映画の主役に抜擢して「和製ターザン」として銀幕に登場。当時アメリカではジョニーワイズミューラーというスイマーをターザン役に仕立て大成功、浜口さんは和製ターザンとして、「あぁっあ・あー」と銀幕の中で叫んでいた。この日、スタンドで岩崎恭子ちゃんや黒鳥文絵さんにも会えた。黒鳥さんは学校の先生であの頃活躍したスプリンターの宇佐美選手の嫁さんになっていた。相変わらず愛くるしい。きっと生徒に人気の先生になっているのだろう。
かっての日本を代表するスイマーに大勢会えたのは理由があった。各種目のメダル授与の表彰者が葉室さん、浜口さん、恭子ちゃん、黒鳥さんたちだったのだ。この企画は素晴らしい。日本の水泳の歴史を築いた選手たちに登場してもらうことによって、今の選手にも励みになることたろう。そして、スタンドにいるコーチやお父さんお母さんは今の子供たちに彼らの活躍を話してあげて欲しいのです。出来れば、場内アナウンスはもっと工夫してほしかった。ただ、過去の成績を紹介するだけでなく、その頃の一言でいいからキャッチフレーズなり、人となりを知らせてあげて欲しかったのです。
アナウンスといえば、レースを盛り上げるアナウンサーをもっと旨く活用して欲しいのです。あらかじめ用意した美文口調の歯の浮くようなコメントはなんとかならないのでしょうか。若者たちはこのプロレス場内アナスタイルに慣らされているのかもしれませんが、スタンドの水泳ファンは何も若者たけではありません。たぶん、プロダクションのさしがねで、アナウンサーはあんなしゃべりをするのでしょうが、水泳連盟も若者向けに迎合する必要はないてしょう。ある特定の優勝候補だけを持ち上げるアナウンスは行き過ぎると不愉快なのです。確かに世界を目指しているわけですから、勝って欲しい、出して欲しい記録はあります。でも、レースでは、誰もがそれぞれの強い思いをもって登場しているのです。北島は日本のエースです。スターです。勝たせたい気持ちは関係者にはあるでしょう。でも、アナウンスには気配りも必要です。私は天邪鬼ですから、北島が負ける時はどんな負け方かなと思っていたので、「そうそう、負けるのも薬、練習不足で勝てると思うな」とある種、快感を味わいました。あれだけ、応援の場内アナウンスをつけて、負けたときにどうするのかと思っていましたが、案の定、冴えませんでした。
特に、観衆の少なかった初日はもっと工夫すべきでしょう。レースとレースの合間の「ス」の多い時間をどう楽しんでもらうかが大事なのでしょう。逆に盛り上がった最終日の日曜は場内の歓声に消されて聞こえませんでした。
アマチュアスポーツも楽しんで盛り上げる演出、そして、全ての選手への暖かい配慮が必要でしょう。ほとんどの選手が負けるのですから。 |