パーゴルフ 2004/06/29号掲載記事
ゴルフ中継アナウンサー・・・今だから話せる失敗談
 テレビのトーナメント中継で、実況や現場リポートはなくてはならない存在。アナウンサーは、豊富な知識と話術で中継を大いに盛り上げ、楽しませてくれる。しかし放送の裏では(または放送中にも)、視聴者が知らない失敗も・・・・・
ウッズが打ったボールが消えた最も怖い 5秒間・・・
 放送日誌をひも解くと、これまでに270ほどのトーナメント中継を担当してきたという島村俊治アナウンサー。
 まず初めに、ゴルフ中継というのは、ゴルファーの名前やスコアのいい間違えが出やすい性質であるものということを、説明してくれた。
 「ゴルフの場合は生ではなく直前のVTRを見ながら話をする。という特異なところがあります。これは、各ホールが同時進行して行われる都合上、仕方のないことなんです」
 これをテレビ業界では擬似生(ぎじなま)という、とのこと。擬似生では、画像が断続的に切り変わる。突然ゴルファーの背中、手元のアップなど、分かりにくい部分が映し出されることも少なくないそうだ。
 「事前に服装チェックなどをしてゴルファーの特徴はつかんでいますが、チェックの段階ではレインウエアを着ていたはずの選手が、画面に映し出されたときには突然脱いでいる。こんなときはさすがに、一瞬戸惑いますね』150人ほどのゴルファーの特徴を頭に入れて放送に臨むというから大変だ。
 ゴルフのみならず、野球、テニス、陸上、水泳、バスケットボールなど、30種目程のスポーツ中継を担当してきた島村氏だが、全競技を振り返って最も凍りついた瞬間が、1997年のフェニックスオープン。タイガー・ウッズが台頭してきたころのエピソードだ。
 「グリーンを真上から写すクレーンカメラを備えたパー3のホール。ウッズがティーショットを打つと、画面はそのクレーンの映像に切り替わりました」その瞬間、スッとボールが消えたのかと思ったのだという。
 「・・・・・」 長い沈黙だった。
 「恐らく秒くらいの間を作ってしまったのではないかと思います。私にとってその沈黙は、5分にも10分にも思える長い時間に感じました」
 ホールインワンだったと気づいたのは、ギャラリーが地響きのような歓声を上げた後だった。無理もない。ボールがノーバウンドで直接カップに吸い込まれる瞬間を真上から見る機会なんて、まずあるはずがないのだから。
 「アナウンサーというのは、起こった出来事について瞬間的に最適なひと言を引っ張り出し、視聴者に伝えるのが仕事。絶句してしまったことを今でも悔いていますよ」 アナウンサー歴40年の中で、最も怖かった5秒間だったという。


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