ゴルフダイジェスト・「2002年8月1日号」掲載記事
ゴルフバトラーズ テーマ28 日本のゴルフ TV中継を考える[後編]
地上波でのゴルフ中継は限界。未来を託したいのはBS放送だ
スポーツジャーナリスト
(元NHK)島村俊治
VS
フリーアナウンサー
(元日本テレビ)志生野温夫
島村・・・・・
「限られた時間枠の放送ではゴルフの全体像は伝えられません」
 『限られた時間内で、たくさんの映像を詰め込もうとする饒舌さが、ゴルフ中継の一番の問題点である。本来なら、ゴルフだけでなくスポーツ中継は生放送であるべきで、編集して見せるべきではない。』と、ここまでが前回の話でした。
志生野  土曜夕方4時から5時半という時間帯にこだわる必要はもうなくなっています。それでスポンサーもつかないし、視聴率も取れないのだったら、深夜や早朝にじっくり放映してくれた方がよっぽどいい。
島村 今までは、スポンサーの関係で次の番組が控えていて、そういう放送をせざるを得なかったのはしょうがなかったかもしれません。でも、これから期待したいのはBSです。ゴルフは4日間なのですから、例えば木、金の予選ラウンドはBS、土日は地上波にする。あるいはBS放送を各局みんな売り出そうとしているのだったら、土日の午後もドーンと生放送でやってほしい。ゴルフ中継を良くするには、4日間放送すること。それからたっぷり放送時間を取ること。できれば、生中継が望ましいということですね。
志生野 温夫
「今の時間帯とスタイルのままでは視聴者の満足は絶対に得られません」
志生野  それでも、ゴルフの場合は試合の全貌は映せないんです。ゴルフは一番テレビ中継のフレームに入りにくいスポーツで、例えばサッカーはとにかくグランド全体を映せば全体像がとらえられる。野球も野球場の中だし、ボウリング、テニスとほとんどのスポーツがテレビの中に収まるんですが、ゴルフは収まらないんですね。一番、テレビ中継に向いていないのがゴルフかもしれません。
島村  金食い虫ですからね。ゴルフとマラソンが一番人手がかかる。
志生野  そうそう、マラソンもフレームに入らない。
島村  ゴルフは最低100人の中継スタッフがいるわけですからね。
志生野  一番お金がかかりますよ。
島村  カメラだって20台前後は必ずいるし、クレーンを使ったり色々な機材を使うわけで、凄くお金がかかる訳で、それで視聴率が5パーセントとか7パーセントで上出来だといわれるぐらいの視聴率しか取れない。それはナイターじゃないからで、土日の午後というにはみなさんゴルフなど、どこかに出かける時間ですからね。でも、テレビを作っている側にとっては、もっと実入りが欲しい。でもそれは無理ですよ。そこにも限界があり、難しさもある。それはNHKも民放も同じですよ。
志生野  ただ民放の場合特にそうかもしれないですが、映像はそれこそ饒舌なのに、映るのは優勝を争っている一握りの選手だけというワンパターンなんですね。
島村  そうそう。我々の言葉で「ネグる」というんですが、最終組が3人で回っていても、スコアを崩して優勝争いから落ちた選手のプレーは完全にカットして、2人で回っているようにしか見えなくなる。そういう放送がほとんどですよね。これは、ある意味で仕方がないことで、そこにゴルフ中継の難しさがあった。だからこそ、生放送が無理でも、たっぷり時間を取った中継が必要だと思うし、その中でのゴルフに精通した画作りが必要だと思うんです。でも今は、今週はフジテレビ、来週は日テレさんで、次はテレビ東京・・・・と、こんなことをやっていると、優秀なスタッフも育たない。
志生野  地上波で無理ならせめてBSが使命感を持って、やるべきです。必ず定着すると思うんです。今の地上波で今の時間帯でやっていたのでは、いつまで経っても視聴者の満足を得られないと思うんですよ。
島村  僕も地上波はもう捨てていいと思う。見たい人、ゴルフの好きな人に見てもらうべきで、そのためには放送時間を長くして、できれば予選ラウンド2時間でもいいから、決勝ラウンドはそれこそきちんと3時間から4時間やって、ゴルフというスポーツがどういうものかその全体像をきちんと見せる。
 僕はスポーツの実況中継というのは勝負そのものを伝えるべきで、大げさに言えば、戦って勝つ、あるいは負けるまでの選手たちの、大げさに言えば、人間としての生きざまを伝えるものだと思ってます。そこのところさえディレクターが押さえてくれればいい画が作れるはずなんです。逆に言うと、それがあったらアナウンサーや解説者なんか要らないんです。「なんか」って言うと失礼ですけどね。でも、解説者に、技術解説やレッスンを求めるというのは、絶対におかしい。
志生野  その解説者の問題については、僕もアナウンサーの立場で人間関係を持っている人がたくさんいるので、言うのは勇気がいるんですが、ことゴルフに限らず、野球、ボウリング・・・・と元プロ選手の解説者と付き合ってきましたが、誰がどう解説したって文句がつく。視聴者からではなく現場でプレーしている同じ仲間からね。青木さんの解説にみんな納得するのはそれだけの実績を持っているからなんです。これは野球でも長嶋さん、王さんクラスじゃない限り、同じですね。日本のスポーツ中継というのは必ずそういう解説者を入れて、アナウンサーは相手をさせられるんですが、このままでいいのかという疑問はずっと持ってましたね。
島村  これは一般論ですが、元プロの場合、試合の大局を見た解説が出来ない人が多い。技術解説とか自分の体験談になってしまう。それは要らないと、僕は思うんです。それとアナウンサーの立場から言えば、話し方の訓練が出来ていないので、聞き苦しい。その辺も、本当はディレクターが指導したり注文をつけたりしなくちゃいけないことなんですが。
志生野  例えば、大西久光さん、戸張捷さん、川田太三さんなどと一緒に仕事してきたんですが、あの人たちの方がなまじなプロよりも面白い解説をしてくれたと思っています。でも、そうう先駆者の後は、やはりプロゴルファーに継いで欲しい。でも、俺たちの領域を侵されたという反発があっただけで、依然としてテレビに対して勉強不足ですよね。
島村  それと最後にアナウンサーにも注文をつけるとしたら、声の出し方を研究して欲しい。これは僕の体験からも言えるんですが、ゴルフには高い声よりも低い声のほうがなじむっていうか落ち着くんです。テンションを上げず、むしろ抑え目にしたほうがいい。
志生野  それは島村さんだから言える本当に高度な部分の注文ですよ。でも野球や格闘技の盛り上げ方とは違わなければいけないというのは本当で、もっと大人の雰囲気が必要だということが、私もようやくわかってきました。
島村  『うるさい』『うるさくない』というのは言葉の量じゃないんですよね。映像にふさわしいかどうかだと思うんです。聞いている人、見ている人に、共感を得れば多弁でもいいんです。共感を得ないことをペチャペチャしゃべるのが、うるさい。
志生野  それは、そのとおりです。僕らも、先輩たちから「お前、つまんねぇ試合ほどアナウンサーの力量が問われるんだ」って言われました。だから何かがカバーしなきゃならないと思った。でも、今、考えると、いい加減のように聞こえるかもしれませんが、所詮つまらないゲームはつまらないです。それをアナウンサーが盛り上げようとするほど逆効果になるだけです。我々としては、いいゲームに当たったときラッキーと思って、そのときに自分の持っている能力をフルに発揮すればいい。別にダメなゲームに当たったときに投げやりになってもいいと言っているわけじゃないですけど、所詮、ダメな試合は、僕らの、アナウンサーの盛り上げとか解説者の盛り上げで面白くなるということは絶対にない。
島村  ゲームがすべてなんですよね。それがスポーツアナウンサーの宿命なんだと思いますよ。


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