ベースボールマガジン・「2004年11月29日号」掲載記事
2004 私の球界改革論
「プロ野球は、子供たちに夢やあこがれを与える素晴らしい産業になりうる」

日本のプロ野球は巨人中心主義から脱却すべき
今年はストあり、合併あり、新規参入ありと激動の一年になりました。島村さんはこの一連の流れをどう見てこられましたか。
島村 近鉄とオリックスの合併から始まって、当初はこれからのプロ野球の先行きが見えないような状況でしたよね。そんな状況からライブドアが出てきて、ストライキが起こった。これによって、世の中へのアピール度が格段に上がったと思うんです。
今まで関心のなかった人までプロ野球に目を向けたり、単に野球だけでなく、産業や企業論、経済論まで含めたところから議論が出始めた。「禍福転じて」というのかな、結果としては12球団の2リーグで落ち着いたのではないかなと。でも、ここに来て西武、ダイエーの売却話も出てきたように、落ち着きかかったというのが現状ですよね。
とりあえずの再スタートを切っただけだと・・・
島村 一つ先が見えたというだけ。あそこまでストライキをやるんだったら、12球団を維持できたというだけで矛を収めないで、プロ野球の抱えている基本的な問題まで、あれからまで進んだほうが良かったのではないかと思いますね。
一気に改革をおこなうべきだった。
島村 もちろん。もうすでに来季に向けての自由獲得枠とか、ドラフト制度の見直しもしないまま次の段階まで進んでいますよね。本当にプロ野球を変えようと思うんだったら、いつまで自由獲得枠を続けるのか。完全ウエーバー制にすべきという声が盛んに上がっていながら、楽天が参入したことで安心してしまったんじゃないかなあと感じているんですよ。もっと徹底的にやってほしかった。
確かにドラフト制度に関しては、一場投手への金銭授受問題で三人のオーナーが辞任するという不祥事まで起きました。
島村 皆さんもご存知のように、このようなことはドラフト制が確立される前からずっと日常茶飯事だったわけです。僕は決してそれをいいとは思っていないし、自由獲得枠なんてやっている限りは、この種の問題はいつまでたってもなくならないですよ。今は一場投手だけが槍玉に上がっているけど、彼だけじゃない。これを機に、この変なドラフト制度はやめないと。結局はお金のある球団じゃないと、いい選手を取れないなんておかしいでしょう。本来は戦力均衡が目的だったドラフトが、特定の球団が選手を集めるための手段になっている。日本の野球界が巨人中心主義から脱却をしない限り、この問題は解決しないですよ。
今回の1リーグ制への動きの根底にも"巨人頼み"という球界の体質がありました。
島村 ただ、今になって巨人だけを悪者にするのもどうかと思うんですよ。これまで各球団は巨人におんぶに抱っこでやってきたんだし、マスコミだって巨人頼みでやってきた。これはアメリカのベースボールの発展の仕方と根本的に違うわけですよ。日本も都市対抗型の野球を最初にアマチュアでやっておきながら、プロ野球になったときに、それを崩して巨人中心になってしまった。読売新聞と日本テレビは自分たちの方法論でそれをやってのけたわけですよ。他のメディアはそれに抵抗しなかった。しなかったものが、批判できないんじゃないかと思うんですよね。日本テレビと読売新聞が中心となって果たした功績もあるんですよ。巨人を中心に日本のプロ野球を動かしてきたというね。ここに来て罪の部分ばかりがクローズアップされていますけど、むしろ彼らは他の球団、他のマスコミに「お前たちだってこっちに加担して、努力しなかったじゃないか」といえると思う。いずれにしても、そのみんなが依存してきた巨人中心主義からどう変わっていけるかがカギでしょうね。
都市対抗型への移行という意味では、今回の楽天の参入の意味は大きいのではないでしょうか。
島村 都市対抗スタイルというか、地域主義みたいなものが今度の騒動をきっかけにして広がってきましたよね。日本ハムの北海道進出も成功しましたし、今度は楽天が仙台に進出する。僕としては四国、北陸にも1球団ずつできれば、かなり地域密着でやっていけると思うんです。九州を北と南に分けてもいいんですよね。そして、これが今回の球界再編とどうリンクしてくるかはまだ分かりませんが、石毛さんが四国で独立リーグを作ろうと動き出している。こういう動きが出てきたのは、すごく大事なことではないかなと思います。
そういう意味でも、楽天には期待したいですね。
島村 新しい企業というのは魅力ですよ。今では日本の基幹産業だった企業がプロ野球の経営をやってきたわけですけど、少なくとも楽天、ライブドア、ソフトバンクにしてもIT関連の企業というのは、まったく違う考え方で事業を起こしてきたと思うんです。その新しい感覚をプロ野球の世界の中で、どれだけ発言し、実行していけるか、それに対して既成の古い権力がどうやって受け止めて、自分たちの中に取り込んでいけるか。そこに注目したいですね。
IT産業の人たちにとっては、何でプロ野球がこんなにもうからないのか不思議でしょうがないと思うんですよ。だってお客さんは来るんだから。1万人じゃ少ないと言っても、今の時代、1万人に何かを売るって大変なことですよ。それを5万人は入らないとやっていけないなんて言っている。IT産業の人たちはその1万人だけでも、そこからどう波及させて利益を上げようか、サービスをしようかと当然考えるはずですよ。要するに、これまでの日本の野球は産業でなないんですよね。興行なんですよ。この体質を脱却しなければダメだと思う。入場料や球場内の売り上げだけではなくて、もっとその都市に密着して、そこからいろんな企業や商売と結び付いていく。昨年の阪神の優勝は関西の経済界に大きな影響を与えたと言われていますが、北海道や仙台でも、ああいう形が出てくればプロ野球は立派な産業になりえますよ。特に東北は野球がもともと盛んなところだから、宮城だけでなく東北6県に"おらがチーム"という意識が生まれてきて、そういう土壌の中で成長していくことができたら、地域の発展にも寄与できるし、新しいことができるんじゃないかなと思いますね。

これからのスポーツ放送はBS・CSの時代になっていく
NHKのアナウンサー時代からテレビメディアに携わってきた島村さんですから、放送権問題にも関心があるのではないですか。
島村 放送権の問題は、非常に大きいと思います。それはアメリカのNBAにしてもMLBにしても、プロスポーツはテレビ放送なくして繁栄はありえないと思うからです。そのあり方も、地上波ではなくなると思っています。日本テレビも頑張って最後まで放送する意欲は見せているけど、実際には最後まで放送できない試合がたくさんあった。これは放送じゃないですよ。結果を最後まで見せないでおいて。でも、それに対して日本のファンは怒らない。それでラジオを聞く。それではいけないんですよ。日本テレビも巨人の人気が落ちてきたということで、NHKに一部を譲りましたよね。あれはすごく先見の明があったと思う。NHKは最後まで結果をきちんと伝えるんだから。要するに、巨人のブランドだけではファンの興味を引き付けることはできなくなったということだと思うんですよ。今は世の中が多様化してきたから、巨人戦ばかり喜んで見る人は確実に減っている。そして、それでいいんです。僕は今、CS放送をやっていますけど、これからのスポーツ放送はBS・CSの時代だと思います。BS,CS放送をファンの皆さんが自分たちのお金を払って見ることで、商品を買うみたいに、好きなチームの応援をするようになってくると思う。もう地上波で巨人しかやっていないから、巨人戦を見るという時代じゃないんですよ。
放送権に関しては、メジャーではコミッショナーが一括して管理していますが、将来的にはそういう形が理想だと思いますか。
島村 アメリカの場合は、全国放送とローカル放送をはっきり分けていますよね。全国放送の三大ネットワークがやるものに関しては一括していますが、ローカル放送は自由。日本もそういう時代が来なければいけないですよ。例えば、BS・CSはそのまま放送をやってもらう。地上波の全国放送に関してはコミッショナーが一括して収入を得て、それを各球団に分配する。ローカル放送は自由にやっていいとかね。いろいろな方法があると思いますけど、この放送権の問題に関しては、もうちょっとコミッショナーに何とかしてほしいと思いますね。
もっとリーダーシップを発揮してほしいと・・・
島村 日本プロ野球の総本山として、コミッショナーと事務局とセ・パ両リーグ、問題はここですよ。今回の一連の騒動でも、コミッショナーは一体何をやっているんだと。「権限がない。」なんていっているんじゃなく、自分の身体をかけるくらいの思いで日本のプロ野球を引っ張っていってほしい。これはなにもコミッショナーだけではなく、事務局で働いている人も含めてですよね。大体、あの組織はスポーツ新聞の記者が定年を迎えて横流れでいくんですよ。記者はいてもいいけど、何でそういう人ばかり集めるのか。もっと財界人や法律の専門家、テレビ局の人とか、いろいろなキャリアの人を集めて組織をつくらないと。ちょっと厳しい言い方かもしれないけど、いろいろな血を入れて、新しい考え方を持っている人を集めないとダメですよね。そうしないと絶対に変わらないと思いますよ。

過去があるから今があることを球界も認識すべき
実際に変えていかなければならないところも本当に多いですね
島村 ドラフト制度や放送権の問題、そして最後まで飽きさせないペナントレースのあり方。まだまだ改革していかなくてはいけないでしょうね。山ほどありますよ。
例えば昨年のセ・リーグは阪神が9月中盤に優勝を決めてしまって、消化ゲームが全部で
81試合ありました。今年は中日が最後もたついた関係で45か46試合。ところが今年のパ・リーグはなかった。これはプレーオフ制を導入したのが大きな理由で、実際は最後に1試合あったんだけど、それがオリックスー近鉄のシーズン最終戦で特別な意味を持つ試合になったんです。
優勝が決まった後の消化ゲームが80も残るような、間の抜けたエンターテインメントなんて考えられないですよ。メジャーはやっぱりそのあたりをよく考えていて、プレーオフから最後のワールド・シリーズまで面白い。アメリカには4大スポーツがあって、それぞれが切磋琢磨しているわけですよ。MLBだって今のようなプレーオフ制度とか交流戦のアイディアはNBAのマネをしたんだから。でも、日本にはその競争がないんですよね。やっとJリーグができたけど、今のプロ野球界にサッカーと競い合ってお互いにいいものを作っていこうという姿勢はない。
ファンの視点が大切ですね
島村 今年のプレーオフのやり方がいいか悪いかにはいろいろな議論があるし、僕も検討すべきと思いますけど、日本シリーズに持っていくまでのファンを飽きさせない方法としてはよかったと思います。それにプレーオフをやるのなら、両リーグでやるべきです。
最後に、これからの野球界、どうあってほしいですか。
島村 日はかなりはっきり言わせてもらいましたけど、僕はプロ野球に栄えられる産業になってほしいんです。そして、スポーツ文化としての役割を担ってほしい。プロ野球は子供たちの夢やあこがれのある、素晴らしい産業になりうるものだとおもうから。
僕は日本にはスポール文化がないとよく言っているんですけど、野球をもっと文化にしていってほしいんですよ。ヤンキー・スタジアムでは左中間のところに殿堂入りしたかつての名選手をたたえることをきちんとしていますよね。でも東京ドームのどこにそれがあるのかよく分からない。そういうことがすごく大事なことだと思うんですね。アメリカの人たちだって、プロ野球を文化にしたいと思ってやっているわけじゃないんです。過去があるから今があり、今があるから未来があるという、単純なことを大事に思っているだけなんですよね。文化を守るということは、歴史を大切にするということです、日本にも歌舞伎や能といった素晴らしい文化がいっぱいあるけど、ただ残念ながら歴史の浅い野球はそれがない。日本のプロ野球も、もっと過去を大事にしてほしいと思いますね。


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