長崎新聞社 論説委員長 峠 憲治氏より〜6月21日掲載コラム
最近のスポーツ中継は、絶叫したり勝手に感動するアナウンサーが目立つが、元NHKアナウンサーの島村俊治さんは、沈着冷静な実況で聞こえた▲先日の長崎新聞政経懇話会で、懐かしい「島村節」に接した。八回に及ぶ五輪中継のなかで、初めて女子マラソンが公式競技となった、1984年のロサンゼルス五輪のエピソードにふれた▲女子マラソンのアンデルセン選手(スイス)が、脱水症状でフラフラになってゴールする光景を覚えている人は少なくない。テレビの実況を担当した島村さんはそのとき、どんな言葉で語るべきか一瞬迷ったという▲そして、言葉は慎重に、泣かない。そう決めて、格好いい言葉は絶対使うまいと思った。お茶の間に流れたのは「あと少しです」「入りました」「ゴールイン」。それだけだった。以来、島村さんは「ゴールした人すべてが勝者である」と思っている▲そうした体験から、近づく北京五輪では敗者をよく見て欲しいと強調した。勝ったシーンより、負けた場面にむしろ多くのことを教わるからだ。英語の「good loser」(良き敗者)という言葉につながる話だ。▲プロ野球の元何回ホークス監督、故鶴岡一人さんの次の言葉も紹介した。「妻も子もあれば親もあるんやで。」いい気になるな。報道する者への忠告だが、島村さんは、今もマイクの前に立つたびに座右の銘にしている。
長崎新聞 6月17日掲載文〜長崎新聞政経懇話会6月例会
スポーツ通じ人生論
長崎新聞政経懇話会6月例会は16日、長崎市茂里町長崎新聞文化ホール・アストピアであり、スポーツジャーナリストで元NHKエグゼクティブアナウンサーの島村俊治氏が「スポーツに見る人の使い方、育て方〜北京五輪に向けて」と題し、スポーツ中継で学んだ人生論や夏の北京五輪について講演した。
島村氏は「スポーツは何が起こるか分からない。そこに感動、驚きがある」と切り出し、「人生の師に巡り合うことができた」と強調。多くの選手、監督らとの出会いを財産にしたアナウンサー人生について語った。
北京五輪に出場する野球日本代表の星野仙一監督について「メッセージが分かりやすく、他人の懐に飛び込むことができる人。決断も早い。一般企業に役立つヒントがある」と分析。「スポーツの指導者には色々なタイプがある。ゴールは同じだが、アプローチが違う。自分に合った生き方を参考にすればいい」とのべた。
1984年から五輪正式種目となった女子マラソンに「男性社会に向かって走り出した。マラソンはゴールすることが勝者。どういう形でゴールするかに感動があり、人生に例えられる」。最後に北京五輪について「開会式を見てほしい。」中国、北京の在り方が見える。民族紛争や大気汚染などいろんな問題を抱えている。世界への主張がある。批判の目を持ちながら楽しんでほしい」と締めくくった。
長崎新聞 6月18日掲載文〜アプローチは人それぞれ
スポーツ実況の世界に入って、今年で45年。アナウンサーになるつもりはなかったが、新人時代、駅伝の中継者に乗った。自分の見たものを自分の言葉で伝えた。運転手に「良かったよ」と褒められたのがスタートだった。たくさんの人との出会い、人生の師と巡り合えたことを幸せに思う。
その一人は南海ホークス監督の故鶴岡一人氏。セカンドの選手がトンネルし、人の気持ちも考えず、鬼の首をとったようにいい気になって実況した。鶴岡氏から後で「プロとしてやっていけないことだが、選手には妻、親、子供がいる」と言われた。人の気持ちを推し量ることを教わった。今でもマイクを持つときに確認している。
読売ジャイアンツX9監督の川上哲治氏からは「なりきる」という言葉を学んだ。私が退職後、何をするか悩んでいた時、川上氏から「スポーツジャーナリストのなりきってみては。監督になりきるのが私のテーマ。答えはない」と論され、今の道を歩んでいる。
指導者にはいろんなタイプがある。ゴールは同じだが、アプローチが違う。自分に合った生き方を参考にすればいい。
昨年12月、北京五輪アジア予選を星野仙一監督率いる日本代表が勝ち抜いた。そのチームづくりにはたくさん参考になるものがある。阪神タイガースが優勝した時は関西の経済に大きな影響を与えた。プロスポーツのあり方はそういうものと思う。米大リーグも地域と結び付いている。
星野氏はメッセージが分かりやすく、最初に結論をいう人。他人の懷に飛び込むこともできる。予測をしての決断が速く、会話を大切にする。
今年の五輪は日本女子マラソンの三連覇が注目されている。女子マラソンは1984年に正式競技になった。男性社会に対するウーマンリブの歴史がある。ゴールした人が勝者。どういう姿でゴールするかに感動があり、人生に例えられる。全力を尽くすことに大きな拍手を送ってほしい。
北京五輪では開会式を見てほしい。中国のあり方が見える。民族紛争や大気汚染などいろんな問題を抱えている。批判の目を持ちながら楽しんでほしい。
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